wagwan
ロンドンの10代が挨拶で言う「wagwan」は、What's going on がジャマイカ経由で極限まで削られた姿。意味は「よう、どう?」で終わり。ただし大人が真似すると、たいてい事故る。
What's going on → Wa a gwaan → wagwan
日本の体育会系の朝って、「おはようございます」が「おはざす」になって、最後は「ざす」しか残らない。9音が2音。意味はちゃんと通じる。人類、挨拶を削るのが好きすぎると思う。
「wagwan」は、それの英語版。
a は「〜している」を作る進行形の印で、gwaan は go on。つまり文法的にはちゃんと「何が起きてる?」のまま意味は「よう」「元気?」「どうしてる?」。中身を本気で聞いているわけではないので、近況報告は要らない。返すなら「Nothing much」か「I'm good, you?」、あるいは同じ「wagwan」を投げ返して終わり。You alright? と同じで、質問の形をした挨拶だと思っておけばいい。
面白いのは、これがもう「ジャマイカ系の子の言葉」ではないこと。ハックニーで2004〜2010年に行われた大規模な調査では、ジャマイカ語・ベンガル語・コックニーなどが混ざった新しい話し方が、出自に関係なくロンドンの若者全体に広がっていると報告された。学者はこれをMulticultural London English(MLE)と呼ぶ。研究者のポール・カーズウィル教授は2010年、「伝統的なコックニーは30年ほどでロンドンの路上から消える」と予測して話題になった。バスの2階で白人の中学生が「wagwan」と言っているのは、だから別に背伸びじゃない。彼らにとっては母語の一部です。
成功例は、オバマくらい
で、ここからが本題。この語、大人が使うとだいたいスベる。
考えてみてほしい。50代の部長が新入社員に「ざす」って言ってきたら、どう思うか。意味は分かる。でも、なんか嫌だ。若者の言葉は意味より「誰が言うか」で成り立っていて、wagwan も完全にそっち側にある。若者言葉を無理して使う大人は、どこの国でも「痛い」の代表格だ。
唯一の成功例として語り継がれているのが、2015年4月、オバマ大統領。ジャマイカの西インド諸島大学で、壇上に上がるなり「Greetings, massive! Wah gwaan?」。会場は爆発的に沸いて、その音声はダンスホールのトラックにサンプリングされまくった。
でもあれが成功したのは、ジャマイカで、ジャマイカの学生に向けて、その言葉への敬意として言ったから。文脈込みの一発芸です。逆に2011年、歴史家デイヴィッド・スターキーはBBCの番組で、若者の話し方を「イングランドに侵入したジャマイカ・パトワ」と嘆いて大炎上し、100人を超える学者がBBCに抗議の公開書簡を送った。同じ言葉が、敬意にも差別の材料にもなる。この語の背後にはそれくらいの歴史が乗っている。
旅行者としての結論はシンプル。