homely
「homely」で褒めたらアメリカ人が固まった。「アットホームな職場」と同じ罠が英語にもある
イギリスの「homely」は「居心地がいい」という最上級の褒め言葉。なのに大西洋を渡ると「顔が地味」に化ける。「家っぽい」が褒め言葉と悪口の境目に立っているのは、日本の求人広告だけじゃなかった。

日本の求人サイトで「アットホームな職場です!」と見かけたら、たぶん多くの人が一歩下がる。給料の話より先に家族の話をしてくる会社は、だいたい家族みたいに休ませてくれない。
「家っぽい」は本来、褒め言葉のはず。なのに、なぜか警報が鳴る。英語にもまったく同じ構造の単語がある。しかも国境をまたぐと、鳴り方が真逆になる。それが、homely。
イギリスでは最上級の褒め言葉、アメリカでは「顔が地味」
同じ単語で、大西洋の両側が真逆のことを言っている
イギリスで homely と言えば「居心地がいい」「家みたいに温かい」。不動産サイトの物件紹介にも、パブの口コミにも、ためらいなく出てくる。
- イギリス:a really homely pub(暖炉があって、犬が寝ていて、帰りたくなくなる店)
- アメリカ:a homely girl(美人じゃない女の子。けっこう失礼)
アメリカ英語の homely は、ほぼ人の見た目専用。辞書の言い方だと「plain or unattractive」。「ブサイク」ほど直球じゃない。「味のある顔ですね」くらいの気遣いが入った悪口で、気遣いが入っているぶん、むしろ刺さる。
ロンドンに住む日本人の友人は、これでやらかした。アメリカ人の同僚の家に招かれ、手作りのパンプキンパイまで出てきた夜。帰り際、ロンドン仕込みの最上級の褒め言葉を置いていった。
Your place is so homely!
同僚の笑顔が0.5秒止まったらしい。友人はいまだに「あれは褒めたのに」と言う。褒めたのは本当。ただ相手の耳には「お宅、地味ですね」と届いている。
求人の「アットホーム」と同じで、言った側は100%善意、受け取った側は警戒モード。ちなみにアメリカで「居心地がいい」と言いたいなら、homey か cozy を使う。
家の言葉が顔の悪口になるまで。犯人の一人はシェイクスピア
ついでにミルトンは、それで女性を口説こうとした
homely は14世紀末、「家の」という素直な意味で生まれた。そこから「飾り気のない → 地味な」と転がり、気づけば人の顔に使われていた。家具に言う「質素」を顔に言ったら、それはもう悪口。
- 1590年ごろ:シェイクスピア『間違いの喜劇』。夫の帰りを家で待ちぼうけする妻が「homely age(所帯じみた歳月)が私の頬から美しさを奪ったの?」と嘆く。容姿に使った最初期の例らしい
- 1634年:ミルトン『コーマス』。悪役コーマスが口説き相手に「It is for homely features to keep home, / They had their name thence」。地味な顔は家にいろ、homely って名前はそこから来てるんだから、という理屈。口説き文句としては史上最悪クラスだと思う。でも語源の説明としては、困ったことにほぼ正しい
この意味が根を張ったのがアメリカ、とくにニューイングランド。homely が「見た目が悪い」の普通の言い方で、ugly はむしろ「性格が悪い」寄りだったらしい。顔と性格で悪口を使い分けるあたり、几帳面すぎる。
イギリスでは「温かい」側が生き残った。19世紀半ばに homey という語が生まれ(最初期の用例は1856年)、アメリカでは居心地のよさがそっちへ引っ越した。イギリスは引っ越さなかった。トールキンがエルロンドの館を「the Last Homely House」と書いたのも、もちろん褒め言葉のほう。
使い分けはこれだけ。
- イギリスで部屋・店・宿を褒める → homely でOK
- 相手がアメリカ人、または出身が分からない → cosy(米綴りは cozy)に逃げる
- 人に向かって homely → どっちの国でもやめておく。イギリスでも「家庭的で温かい」と取ってもらえる保証は、たぶんない