pear-shaped
go pear-shapedは「ぐだぐだに崩れる」。ロンドンでは増築工事も結婚式のスピーチも、失敗談はだいたいこのひと言で後半に入る。ただ、有名な「空軍の宙返り説」は、裏付けを探すと意外とスカスカだった。

「My diet went completely pear-shaped.」
職場の同僚にそう言われた日本人の友人は、3秒くらい固まったらしい。pear-shapedには文字どおり「洋梨体型(下半身がどっしり)」という意味もある。痩せるはずが洋梨体型になった、という自虐なのか。それとも別の何かなのか。
正解は「ダイエットがぐだぐだに崩れた」。ただ、言った本人がニヤッとしていたので、たぶん両方かけている。イギリス人はダジャレの余地を見つけると放っておけない。
失敗談の折り返し地点で、イギリス人はみんなこのひと言を使う
go pear-shapedは「(計画や物事が)ぐだぐだに崩れる、台無しになる」。直訳は「洋梨形になる」。辞書的にはこれで終わりだけど、ロンドンで暮らしていて気づくのは、使われる場所がほぼ決まっていること。失敗談の折り返し地点だ。
前半は必ず順調。そこから一気に崩れる。この話の型にぴったりはまるので、イギリス人の失敗談はほぼこのひと言で後半に入る。
形は it all went pear-shaped か things have gone pear-shaped がほぼ全部。主語は計画や状況で、人には使わない。「He went pear-shaped」と言うと、彼の失敗じゃなくて彼の体型の話になる。冒頭のダイエットのダジャレが成立するのはこのせい。
そしてイギリス英語なので、a bit pear-shapedと控えめに言うこともある。台所が水浸しで天井が抜けかけていても「a bit」。ここは真に受けないほうがいい。
語源は怪しい。でも形の選び方はめちゃくちゃ的確
有名なのは英国空軍(RAF)説。訓練生に宙返り(ループ)をやらせると、きれいな円にならず、下が膨らんだ洋梨形の軌跡を描く——というもの。オックスフォード英語辞典(OED)も「もとはRAFのスラング」としていて、初出は、1983年、フォークランド紛争の空戦記『Air War South Atlantic』。パイロットの証言「機体が揺れて、そこから一気にpear-shapedになった」が最初の記録らしい。
ただし、宙返りの話はあくまで後付けの説明。語源ライターのMichael Quinionは「確かな証拠を見たことがない。ちょっと出来すぎ」とバッサリ。パラシュートがしぼむ形、ガラス吹きの失敗……と諸説あって、正直どれも決め手に欠ける。
でも語源が怪しくても、形の選び方はめちゃくちゃ的確だと思う。小学生の夏休みに描かされた「一日の円グラフ」を思い出してほしい。7月に描いた円は完璧。8月になると起床が後ろにずれ、昼寝が膨らみ、宿題がやせ細る。円の中身がとっくに洋梨。計画は円で描くもので、現実は重力で下に垂れる。その垂れた形に、イギリス人はわざわざ果物の名前をつけた。
ちなみにアメリカ人には通じないことがある。米国の新聞に出てくるのは1999年ごろかららしく、向こうではgo southやgo sidewaysのほうが一般的。ロンドンで使うなら、まずは自分の失敗談から。人の体型の話と取り違えられる心配もない。