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    ジャスト・ロンドンは、ロンドンの深層に迫る力量も器量もない中途半端な存在ですが、旅の判断をほんの少し整える一文が紛れていれば、それだけで存在理由になります。

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    British English2026年9月11日

    love

    ロンドンのレジで「love」と呼ばれても恋は始まらない。真似すると事故が始まる

    ロンドンの店員やバスの運転手が口にする「love」は口説き文句じゃなく、ほぼ「お客さん」の意味。ただし誰が誰に言うかには地味に厳しいルールがあって、日本人男性が真似するとだいたい事故る。

    ロンドンのレジで「love」と呼ばれても恋は始まらない。真似すると事故が始まる

    ロンドンに来て最初の週、近所のコーナーショップで牛乳を買った。レジのおばちゃんがお釣りを渡しながら言う。「There you go, love. Ta!」

    love。愛。30代独身男、その日は一日ちょっと機嫌がよかった。

    翌日、同じおばちゃんが後ろに並んでいた作業着のおじさんにも「Ta, love」と言っているのを聞いた。その次の客にも言っていた。どうやら僕は選ばれたわけではなかったらしい。

    01

    「love」は告白じゃなくて、ただの「お客さん」

    大阪のおばちゃんの「お兄ちゃん」とだいたい同じ

    店やバスで聞く「love」は、恋人を呼ぶ love とは別物だと思ったほうがいい。中身はほぼ「お客さん」「ちょっとあなた」。大阪のおばちゃんが初対面の相手を誰彼かまわず「お兄ちゃん」と呼ぶのに近い。兄弟じゃないことは全員わかっている。

    よく聞く形はこのへん。

    • Ta, love. — ありがとね(Ta は thanks のくだけた形)
    • You alright, love? — いらっしゃい/どうしました?
    • Sorry, love. — 道で肩がぶつかったときの「ごめんね」

    見知らぬ相手への気軽な呼びかけとしての love は、OEDで確認できる最古の用例が1865年。150年以上、イギリスのレジでは「愛」が小銭と一緒に手渡され続けている。

    しかも呼び名は土地で変わる。

    • ミッドランズ(ストーク、ダービー、レスター): duck。「公爵(duke)がなまった」説もあるが、ノッティンガム大学の古英語の研究者いわく素直に鳥のアヒル。シェイクスピア『夏の夜の夢』(1600年)にもう出てくる
    • 北東部・ニューカッスル: pet、hinny
    • バーミンガム: bab
    • ウェスト・カントリー: my lover

    デヴォンで知らないおじさんに「my lover」と呼ばれても、やっぱり恋は始まらない。

    02

    男が男に「love」と言う確率、1.4%

    受け取るのは自由、投げ返すのは要注意

    この話を日本人の友人にしたら、翌朝さっそく実践していた。バスを降りるとき、運転手に「Cheers, love!」。相手は腕にタトゥーの入った大柄な男性で、ミラー越しに一瞬、確実に二度見されたらしい。

    彼は単語を間違えていない。間違えたのは「誰が、誰に」のほうだ。

    1990年代と2010年代のイギリス人の日常会話を集めたコーパス(BNC1994/BNC2014)を比べた2022年の論文によると、

    • love を一番使うのも、一番言われるのも女性
    • 男性から男性へは2.8%→1.4%。もともと少数派が、さらに半分に
    • 会話で love と呼びかける回数そのものも、20年でかなり減った

    肩身も狭くなっている。2012年にはブライトン&ホーヴ・バスが「love、darling、babe と呼ばれて不快に思う乗客もいる」と運転手に通達し、新聞に「love禁止令」と書き立てられた。

    それに「イギリス人はフレンドリーだから誰にでも love」という説明、半分しか合っていない気がする。同じ論文によれば love は、「こっちの言うことを聞いてね」を愛想の包装紙で包む道具でもあるらしい。「Sorry, love, you can't park there.」。謝ってるし愛してるけど、言ってることは駐車禁止。人事面談の「期待してるからこそ言うんだけど」と同じ構造だ。

    というわけで、love は受け取るだけにしておくのが平和。返すなら Cheers か Ta で十分だし、男同士なら mate でいい。

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    ロンドンの誘いが全部「fancy」なのは、断られる準備をしてから誘ってるから

    明日もまた1語、増えます。

    イギリス英語の沼は、思ったより深い。

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