rubber
イギリスの rubber は消しゴム。アメリカだと避妊具。どっちが本家かといえば、ゴムという素材の名前そのものが「鉛筆の跡をこするもの」から来ているので、イギリスの圧勝。

大学時代の友人Mさんは、アメリカの大学院を出てからロンドンに来た人。娘さんが地元の公立小学校に通っていて、ある日、保護者ボランティアとして教室の読書の時間を手伝いに行った。
Year 2、7歳のクラス。前の席の男の子が手を挙げて、先生に言う。
「Miss, can I borrow a rubber?」
Mさんの頭の中で、アメリカ時代の寮のルームメイトの顔がよぎった。7歳が? 授業中に? 先生に?
先生は顔色ひとつ変えず、ペン立てから白い消しゴムを1個取って渡した。男の子は計算ドリルの「7」を消して「1」に書き直した。
帰り道、Mさんから「アメリカ英語を知ってるほうが損することってあるんだね」とLINEが来た。
日本語の「ゴム」と同じ罠
結論から言うと、イギリスで rubber はただの消しゴム。筆箱に入ってるアレ。消すことも rub out と言う。
日本の学校英語はだいたいアメリカ寄りなので、日本人は eraser で覚えている。だから Mさんみたいに、アメリカの意味だけ先に知ってる人ほどロンドンの教室で固まる。
でもこれ、日本語で考えるとすぐ分かる。文房具屋で「消しゴムください」は普通。薬局で「ゴムください」も普通。同じ「ゴム」でも、「消し」が付くかどうかで意味が変わる。イギリス人はその「消し」を最初から省略して暮らしてる、というだけの話。
なのでアメリカ人の同僚に「rubber 貸して」と言うのはやめたほうがいい。逆に、イギリスの子どもに「eraser」と言っても普通に通じる。困るのは、アメリカの意味しか知らない大人だけ。
1770年、シティの王立取引所の向かいで
で、どっちが本家かというと、たぶんイギリスのほう。
rubber はもともと rub(こする)+ er で、こするもの全般のことだった。1530年代からブラシや布をそう呼んでいたらしい。18世紀まで、鉛筆の跡はパンの白いところでこすって消していた。
つまり順番は「消しゴム → 素材のゴム」。素材の名前のほうが、文房具から出世した。プリーストリーが名付け親だと書いてあるサイトも多いけど、脚注で彼が書いたのは「鉛筆の跡を拭うのにうってつけの物質」。名前が定着したのはその数年後らしく、命名者説は正直ちょっと怪しい。
タイヤもゴム長も、アメリカのあの意味も、名前の上では全部消しゴムの子孫。7歳の男の子は、250年前のロンドンの言葉をそのまま使っていただけ。固まる必要はなかった。