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    British English2026年8月13日

    pants

    「I like your pants」でイギリス人が固まるのは、あなたが下着を褒めたから

    イギリスで pants はズボンじゃなくてパンツ、つまり下着。しかも「最悪」という意味の悪口でもある。褒めたつもりが下着を褒めていた、という事故が今日もどこかで起きている。

    ロンドンに来て半年くらいの頃、職場の同僚が妙にかっこいいチノパンを履いてきた日があって、僕は満面の笑みで「I like your pants!」と言った。同僚は0.5秒フリーズしたあと、「...thanks?」と言って自分の腰のあたりをちらっと見た。あの間(ま)の正体を理解したのは、その日の夜だった。イギリスで pants は下着。僕は同僚の下着を褒めた男として、その週を過ごした。

    01

    trousers と pants を混ぜた瞬間、事故る

    日本人がほぼ全員通る道

    整理すると、こう。

    • trousers — イギリスで言う「ズボン」。これが正解。
    • pants — イギリスでは下着(主に男性用のブリーフ・トランクス)。アメリカではズボン。
    • knickers — 女性用の下着。これも trousers の意味では絶対に使わない。

    つまり「今日ズボン新しいの買ったんだ」を I bought new pants と言うと、イギリス人の脳内では「今日パンツ新調したんだ」という、聞いてもいない私生活の報告になる。別に通報はされないけど、相手は絶対に一瞬考える。

    ややこしいのは、イギリス人の多くがこの違いを知っているせいで、逆にあなたがアメリカ英語のつもりで言っている可能性も検討してくれることだ。だから会話は止まらない。止まらないまま、あなたは訂正される機会を永久に失う。僕みたいに半年気づかないやつが出てくるのはそのせいだと思う。

    ちなみに、この単語の由来はイタリアの即興喜劇コメディア・デラルテに出てくる「パンタローネ」という、ケチで好色で最後は必ず痛い目を見る老人キャラ。彼の履いていたぴったりした脚衣が17世紀のイギリスで流行って pantaloons と呼ばれ、19世紀にそれが縮んで pants になった。世界中の人が毎日口にしている単語の語源が、イタリアのスケベじいさんの名前。知ってしまうともう戻れない。

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    しかも「クソつまんない」という意味の悪口でもある

    It was pants.

    ここからが本番。イギリスの pants には、もうひとつ「最悪」「ひどい」「ゴミ」という形容詞的な用法がある。

    • The film was absolute pants. — あの映画マジで最悪だった。
    • I'm pants at cooking. — 料理がてんでダメ。
    • a pile of pants — 「ゴミの山」くらいの意味。定番の言い回し。

    下着がなぜ「最悪」になるのか。誰にもよく分かっていない、というのが正直なところらしい。言語学者のジョナサン・グリーンによれば流行り出したのは1990年代で、BBC Radio 1のDJたちが気に入らないものを a pile of pants と切り捨てたのが広まったきっかけ、という説が有力。活字での初出はどうやら1994年のガーディアン紙。要はそんなに古い言葉じゃない。日本で言うと「ヤバい」がネガティブからポジティブに転んだ時期とだいたい同じくらいの、割と最近の変化だ。

    思うに、これは日本語の「パンツ」がお笑いで無条件に強いのと同じ原理で、下着というだけで人はちょっと笑ってしまう、その笑いが侮蔑に流用されただけなんじゃないか。イギリス人は皮肉が高尚だと思われがちだけど、国民的な悪口の語源が「パンツ」なのはさすがにちょっと笑う。

    そして最大の罠がこれ。あなたが I like your pants と言ったとき、相手の頭には「下着を褒められた」と「服をけなされた」の2つの解釈が同時に立ち上がる。あの0.5秒の沈黙は、そういうことだったらしい。

    明日もまた1語、増えます。

    イギリス英語の沼は、思ったより深い。

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