half seven
half seven は7時半。6時半じゃない。ところが同じ言い方がドイツ語では6時半を指すので、ロンドンでは今日もどこかで誰かが1時間早くパブに座っている。そして日本人がつまずくのは、実は全然別の場所だったりする。

ロンドンの友人から聞いた話。職場のドイツ人同僚に「See you at half seven」と言われてパブで待ち合わせたら、相手は6時半に現れて、しかも「時間ぴったりに来たのに誰もいない」という顔で立っていたらしい。丸1時間、ふたりの世界がずれていた。でも彼は何ひとつ間違えていない。ドイツ語のルールで英語を読んだだけだ。人を平和的に1時間ズラす兵器としては、たぶん世界最高水準だと思う。
同じ7時半を、英語は「7」と呼び、ドイツ語は「8」と呼ぶ
種明かしはあっけない。half seven は half past seven から past を落としただけ。7時半。それだけ。half eight なら8時半、half ten なら10時半。英国の時刻表記を扱った資料にも載っている、由緒正しい口語だ。
厄介なのは海の向こう。ドイツ語の halb sieben は6時半になる。「7時に向かって半分まで来た」と数えるからだ。オランダ語も同じ流儀で、half acht は8時半ではなく7時半。
進捗会議に置き換えると分かりやすい。大陸式は「7時の締切に向かって半分終わりました」という事前報告。イギリス式は「7時を過ぎて半分経ちました」という事後報告。同じ数字なのに、片方はまだ間に合っていて、片方はもう手遅れ。社内でやったら普通に炎上する。
ちなみにアメリカ人はこの言い方をしない。seven thirty で済ませる。「イギリス人は曖昧を好むから」みたいな解説を見かけるけど、たぶん違う。past を言うのが面倒なだけだと思う。
意味は取れるのに、耳がついていかない
先に良い知らせ。この罠、日本人はほぼ引っかからない。日本語の「7時半」がたまたま英語と同じ論理だからだ。ここだけはドイツ人相手に有利が取れる。
つまずくのは意味じゃなくて音のほう。学校で叩き込まれるのは half past seven なので、会話で half seven と来た瞬間、脳が消えた past を探しに行ってフリーズする。「ハーフ…セブン…7の半分…3時半?」——その0.5秒で話題はもう次に行っている。
もうひとつが、イギリス人の表記と発話の二重生活だ。
おまけにスコットランド東部の back of seven は7時ちょっと過ぎ。しかも地元でさえ「8時直前だろ」と取る人がいて割れているらしい。もう時計を見なくていいのでは。
対策はひとつ。「Half seven — 7:30, yeah?」と一回聞き返す。カフェに1時間ひとりで座っているより、よほど恥ずかしくない。