posh
船の一等船室の略——という語源、日本語のサイトにも英語のサイトにも山ほど書いてある。でもP&O本社が「そんな切符は一枚も刷ってない」と否定している。しかも本来の問題はそこじゃなくて、この単語、面と向かって言うと結構カチンとくる。

知り合いの日本人が、ロンドンで出会ったイギリス人に「君の英語、posh だね」と言ったことがある。褒めたつもりだった。相手の顔がスッと曇ったらしい。本人は何が起きたのか最後まで分からず、後日わたしに「あれ、なんでダメだったんですか」と聞いてきた。ダメというか、まあ、けっこう際どいことを言ったんですよ、あなた。
語源が気持ちよすぎる話は、だいたい後付け
まず有名なやつを潰しておく。インド航路の豪華客船で、往きは左舷(Port Out)、帰りは右舷(Starboard Home)が日陰になって涼しい。だから金持ちはその側を取り、切符に「POSH」と印字された——という説。
よくできてる。よくできすぎてる。
じゃあ本当の語源は? わかっていないのが正直なところ。ロマ語の påš(半ペニー)由来説、ウルドゥー語の safed-pōśh(白い服を着た者=金持ちを皮肉る言い方)由来説あたりが候補に挙がるが、どれも決め手に欠ける。
「洒落た」の意味で印刷物に出てくるのは1918年の風刺雑誌『Punch』の漫画あたりから。語源のほうが後から生えてきた、という順番です。
褒め言葉の顔をした階級のラベル
語源より実害があるのはこっち。posh は物に使うぶんには無害だけど、人に使うと途端に階級の話になる。
イギリスの階級意識は、日本人が思ってるより湿っぽく生きている。posh と言われた側が受け取るニュアンスは、だいたいこう。
褒めてるようで、grouping されている。日本で言えば初対面で「ご実家、太いんですね」と言われる感じに近い。事実だとしても、笑顔では返しにくい。
しかも面倒なのが、方向が一定しないこと。ロンドンの金融街なら「上品な話し方」で通る評価が、地方の職場では「気取ってる」の一言で片付く。訛りを消して面接に臨む北部出身者がいる一方で、posh すぎて職場で浮くのを嫌って逆に訛りを足す人もいる。どっちに転んでも生きづらい単語なんですよ、これ。
安全に使うなら物に対して。This hotel is a bit posh, isn't it?(このホテル、ちょっと高級すぎない?)くらいの、軽く茶化す距離感がちょうどいい。人に向けるのは、相手と冗談を言い合える仲になってからで遅くない。