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    British English2026年8月20日

    posh

    「posh」は褒め言葉じゃない。あの有名な語源も、たぶん全部ウソ

    船の一等船室の略——という語源、日本語のサイトにも英語のサイトにも山ほど書いてある。でもP&O本社が「そんな切符は一枚も刷ってない」と否定している。しかも本来の問題はそこじゃなくて、この単語、面と向かって言うと結構カチンとくる。

    「posh」は褒め言葉じゃない。あの有名な語源も、たぶん全部ウソ

    知り合いの日本人が、ロンドンで出会ったイギリス人に「君の英語、posh だね」と言ったことがある。褒めたつもりだった。相手の顔がスッと曇ったらしい。本人は何が起きたのか最後まで分からず、後日わたしに「あれ、なんでダメだったんですか」と聞いてきた。ダメというか、まあ、けっこう際どいことを言ったんですよ、あなた。

    01

    「Port Out, Starboard Home」説、ほぼ確実にウソ

    語源が気持ちよすぎる話は、だいたい後付け

    まず有名なやつを潰しておく。インド航路の豪華客船で、往きは左舷(Port Out)、帰りは右舷(Starboard Home)が日陰になって涼しい。だから金持ちはその側を取り、切符に「POSH」と印字された——という説。

    よくできてる。よくできすぎてる。

    • 運航元のP&O社が「そんな刻印の切符は発行していない」と明確に否定している
    • 当時の切符は山ほど現存しているのに、POSHと書かれた実物が一枚も出てきていない
    • インド駐在時代の手紙や小説は大量に残っているのに、誰一人この言い回しを書き残していない
    • そもそも単語を頭文字で作る遊びは20世紀に流行ったもので、それ以前の語の説明に持ち出すと大体こける

    じゃあ本当の語源は? わかっていないのが正直なところ。ロマ語の påš(半ペニー)由来説、ウルドゥー語の safed-pōśh(白い服を着た者=金持ちを皮肉る言い方)由来説あたりが候補に挙がるが、どれも決め手に欠ける。

    「洒落た」の意味で印刷物に出てくるのは1918年の風刺雑誌『Punch』の漫画あたりから。語源のほうが後から生えてきた、という順番です。

    02

    で、これ人に向かって言うと刺さります

    褒め言葉の顔をした階級のラベル

    語源より実害があるのはこっち。posh は物に使うぶんには無害だけど、人に使うと途端に階級の話になる。

    イギリスの階級意識は、日本人が思ってるより湿っぽく生きている。posh と言われた側が受け取るニュアンスは、だいたいこう。

    • 「私立校出身でしょ」
    • 「苦労したことないんでしょ」
    • 「こっち側の人間じゃないよね」

    褒めてるようで、grouping されている。日本で言えば初対面で「ご実家、太いんですね」と言われる感じに近い。事実だとしても、笑顔では返しにくい。

    しかも面倒なのが、方向が一定しないこと。ロンドンの金融街なら「上品な話し方」で通る評価が、地方の職場では「気取ってる」の一言で片付く。訛りを消して面接に臨む北部出身者がいる一方で、posh すぎて職場で浮くのを嫌って逆に訛りを足す人もいる。どっちに転んでも生きづらい単語なんですよ、これ。

    安全に使うなら物に対して。This hotel is a bit posh, isn't it?(このホテル、ちょっと高級すぎない?)くらいの、軽く茶化す距離感がちょうどいい。人に向けるのは、相手と冗談を言い合える仲になってからで遅くない。

    明日もまた1語、増えます。

    イギリス英語の沼は、思ったより深い。

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