all mouth and no trousers
「all mouth and no trousers」は「口だけで中身がない」。ただし元の形には「no」がなく、ズボンが指していたのはかなり下品なものだった。今は政治家にも使える便利な悪口に落ち着いている。

友人の地元、ハックニーのパブでのこと。ビール3杯目のGazが「来年は絶対ロンドン・マラソン走る。上司にも明日ガツンと言う」と宣言した。去年も同じことを言っていたらしい。
隣のSarahがグラスも置かずに一言。
「Gaz, you're all mouth and no trousers.」
テーブルは爆笑。僕は反射的にGazの下半身を見た。普通にジーンズを穿いていた。
ズボンを確認した時点で、この場で一番何も分かっていなかったのは僕だったと思う。
元の形には「no」がなかった
意味はシンプルで「威勢のいいことを言うだけで、実行しない人」。日本語なら口だけ番長。ただ、なぜズボンなのかは誰も教えてくれない。
実は元の形は all mouth and trousers。「no」がない。
つまり「口も下半身も威勢だけはいい男」という、かなり下品な悪口だったらしい(スラング辞典編者のジョナサン・グリーンの解釈)。記録に残る最初の例は1961年のL.P.ハートリーの小説で、女性の台詞がこれ。
Most men are all mouth and trousers—well, I like the trousers best, if you see what I mean.
「男なんてみんな口とズボンだけ。まあ私はズボンのほうが好きだけど、意味分かるでしょ」。1961年の時点で、もう完全に仕上がっている。
その後「no」を足した形が広まった。確認できる最初は1974年のDaily Mirror。下ネタの意味が分からなくなった人たちが「口だけで中身(ズボン)がない」と筋の通る形に直した、という見方が有力。深夜番組のネタを、朝の情報番組で使える形に編集したようなものだと思う。
遠回しの国の、珍しく直球な悪口
この言い回しは北イングランド、特にヨークシャーとの縁が深い。ヨークシャーが舞台の長寿コメディ『Last of the Summer Wine』(1973〜2010年)でも、女性が調子に乗った男を黙らせる決め台詞として使われていたらしい。パブのSarahは、その正統な後継者だった。
「イギリス人は遠回しにしか悪口を言わない」とよく言われる。でもこれは直球。しかもズボン。遠回しの国にも、言うときは言う語彙がちゃんとある。
今は男女関係なく、政治家やサッカークラブにも使われる。1974年の初出も、キプロスでクーデターを起こした政治家に向けたものだった。親戚筋も覚えておくと便利。
イギリスはズボンと下着、アメリカは帽子。見栄を下半身で測るか頭で測るかの違いな気がする。
友達同士なら笑って済む程度の悪口。ただ上司に言うと、翌日ガツンと言われるのはあなたのほうになる。