tea
「Come round for tea」を「お茶しよう」と訳すと、ローストチキンが出てきて詰みます。ついでに、日本のホテルが高級の代名詞として売っている「ハイティー」は、本国では工場帰りの労働者の晩ごはんのことでした。

マンチェスター出身の同僚に「Come round for tea on Saturday, about six」と言われた。土曜の六時にお茶。いい話じゃないか。呼ばれてお菓子をつまむだけだと踏んだ僕は、家できっちり夕飯を食べ、菓子折りを提げて彼の家のドアを叩いた。
出てきたのはローストチキン。ポテト。グレイビー。山盛りのヨークシャープディング。奥さんが「今日は張り切っちゃって」と笑っている。人生であれほど必死に「腹が減っていないこと」を隠した二時間はない。
単語ひとつで出身地がバレる
YouGov が2018年に4万2千人のイングランド人に聞いた調査だと、夕飯を dinner と呼ぶ人が57%、tea が36%、supper が5%。多数決の話に見えるが、地図に落とすと様子がおかしい。マンチェスターやマージーサイド、タイン・アンド・ウィアは tea が圧勝。エセックスやケントは dinner が圧勝。ミッドランズが接戦で、要するに国の腹のあたりに線が引いてある。
しかも北では階級があまり効かない。北部は中流でも dinner 派が37%、労働者階級だと28%。南は中流74%・労働者70%が dinner。「tea は労働者階級の言い方」という説明は、北を見た瞬間に崩れる。
ただし上のほうに例外がいる。ナンシー・ミットフォードが1956年に広めた U / non-U(元ネタは言語学者アラン・ロスの1954年の論文)によると、上流は昼が luncheon で夜が dinner。non-U は昼が dinner で夜が tea。つまり「dinner に来なよ」と言われても、昼か夜かは話者の階級を推定しないと決まらない。
日本で言えば、初対面の相手が「飯」と言うか「ごはん」と言うか「お食事」と言うかで実家の解像度が勝手に上がってしまうアレ。あれの地方版と階級版が同時に走っている国だと思えばいい。
high はテーブルの高さのこと
で、日本人が一番きれいに引っかかるのが high tea。三段トレイ、シャンパン、スコーン。あれを「ハイティー」と銘打って売っている店、本国基準だとだいたい間違っている。あれは afternoon tea。
high は「高級」の high じゃない。テーブルの高さの high。19世紀、北イングランドとスコットランドの工業地帯で、工場から帰った労働者が背の高いダイニングテーブルに座り、肉やパイやポテトを紅茶で流し込む。これが high tea。上流のアフタヌーンティーは応接間の低いテーブルで食べるから low tea。高い低いは机の脚の話であって、身分の話ではなかった。
なのに「high のほうが偉そうだから」という理由で、アメリカや日本のホテルが豪華なほうを high tea と名付けてしまった。誤読がそのままブランドになった珍しい例だと思う。ついでに「アフタヌーンティーは1840年代にベッドフォード公爵夫人アンナが発明した」という定番の由来も怪しい。バースやハロゲイトのスパ町では1750年代にもう午後のお茶が出ていたらしく、発明者がいたほうが話として気持ちいいので彼女に押しつけられている疑いがある。
結論。招かれたら遠慮せずこう聞けばいい。「Is that a proper tea, or just a cuppa?」 ちゃんとした飯なのか、お茶だけなのか。これを聞ける人は夕飯を二回食べずに済む。