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    ジャスト・ロンドンは、ロンドンの深層に迫る力量も器量もない中途半端な存在ですが、旅の判断をほんの少し整える一文が紛れていれば、それだけで存在理由になります。

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    British English2026年9月26日

    sent to Coventry

    「sent to Coventry」は英語版シカト。ただし巻き込まれたのは鹿じゃなく、人口34万人の街だった

    「sent to Coventry」は、集団で申し合わせて1人を「いないもの」扱いにすること。シカトより村八分に近くて、しかも軍隊仕込みの運用ルールまである。礼儀正しい国のはずなのに。

    「sent to Coventry」は英語版シカト。ただし巻き込まれたのは鹿じゃなく、人口34万人の街だった

    日本語で人を無視することを「シカト」と言う。花札の10月札「紅葉に鹿」の鹿がぷいっと横を向いているから、というのが有力な説らしい。つまり日本人は、無視という行為の責任を鹿に押し付けた。

    英語にも同じ系統の言葉がある。sent to Coventry。直訳すると「コヴェントリーに送られる」。こっちが押し付けた相手は鹿じゃない。ロンドンのユーストン駅から電車で1時間ちょっとの、人口34万人の地方都市だ。コヴェントリーの人からしたら、たまったものじゃないと思う。

    01

    シカトは1人でできる。Coventryは全員でやる

    感覚としては、どっちかというと村八分

    知人は職場で「Dave's been sent to Coventry」と聞いて、Daveの送別会の店を探し始めたらしい。Daveはどこにも異動していない。同じフロアにいて、全員から口をきいてもらえなくなっていただけだった。そして知人は、追い打ちをかけるように、送別会まで企画しようとしていた。Dave、さすがに気の毒である。

    ここがシカトとの一番の違い。

    • シカト:1人でもできる。気まずい相手を自分だけ無視するのもシカト
    • sent to Coventry:集団が申し合わせて、1人を「いないもの」扱いにする

    個人的な無視なら普通は the silent treatment、ロンドンの若い子なら「I got blanked」で足りる。

    しかもこの罰、運用ルールがある。1811年の俗語辞典には陸軍の将校が同僚に科す罰として載っていて、対象者は「不在とみなされ、誰も話しかけず、質問にも答えない」。ただし職務に関すること以外は。つまり業務連絡だけは来る。日本の職場でも見たことがある気がする。

    20世紀には労働争議の定番の制裁になった。1974年のストに参加しなかったグリムズビーのトロール船会社の従業員2人は、同僚からCoventry送りにされ、翌年には解雇されて議会で取り上げられている。「イギリス人は礼儀正しいから陰湿なことはしない」と思っている人へ。彼らは陰湿さに正式名称と運用規則まで付けていた。

    02

    語源は内戦。でも記録上の最初はワイン6本で許された男

    重い歴史かと思ったら、飲み会の話だった

    通説では、17世紀のイングランド内戦がルーツ。議会派の牙城だったコヴェントリーに王党派の捕虜が送られ、住民から徹底的に相手にされなかった、という話。実際、クラレンドン伯の『反乱史』には、1642年にバーミンガムの住民が国王軍の兵を捕まえて「コヴェントリーに送った」とある。ただしそこでは文字どおりの護送で、無視の比喩じゃない。有力な説の一つ、くらいに思っておくのが無難だと思う。

    比喩として記録に残る最初の例は、そこから120年以上あとの1765年。チェシャーの狩猟クラブ、Tarporley Huntの記録だ。

    • 猟犬を、指示とは違う場所に送った会員がいた
    • その会員がCoventryに送られた
    • 復帰の条件は、クラブにクラレットを6本差し入れること

    内戦の悲劇かと思ったら、記録上の始まりは「段取りをミスった人が、ワインを奢って許された」話だった。日本の大学のサークルと何も変わらない。

    最後にコヴェントリーの名誉のために。2017年に「2021年の英国文化都市」に決まったとき、市の事務方トップは「世界中、荷造りしておけ。2021年は全員Coventry送りだ」と言い放った。地元育ちのラッパー、Pa Salieuのデビュー作のタイトルも『Send Them to Coventry』。250年いじられ続けた街は、ネタを奪い返すほうを選んだらしい。

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