British English2026年8月19日

    It's raining cats and dogs

    「It's raining cats and dogs」は290年前からすでにダサかった

    中学の教科書で一番テンションが上がったあの表現、ロンドンで使うと「うわ、教科書で習ったやつ言ってる」という顔をされます。しかもこれ、最近ダサくなったわけじゃない。1738年の時点ですでに「クリシェをバカにする本」に収録されていた、筋金入りの手垢まみれフレーズです。

    知人の日本人が、ロンドン到着3日目にどしゃ降りに遭って、パブで隣のおじさんに「Oh! It's raining cats and dogs!」と満面の笑みで言い放ったらしい。おじさんは3秒ほど固まったあと、やさしく「...yeah. Chucking it down, innit」と返してくれたそうだ。この3秒の沈黙に、この表現のすべてが詰まっている気がする。

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    ジョナサン・スウィフトは、この表現をバカにするために書いた

    褒めてたと思ってた人、残念でした

    この表現が現在の形で最初に活字になったのは、1738年、『ガリバー旅行記』のジョナサン・スウィフトの本だとされている。「イギリスの文豪が使ったフレーズ」と聞くと格調高く感じるが、ここに壮大な罠がある。

    その本のタイトルは『A Complete Collection of Polite and Ingenious Conversation』。直訳すると「上品で気の利いた会話・完全収録集」。これ、皮肉です。 上流階級が得意げに繰り出す、中身のない決まり文句をひたすら並べて笑いものにする風刺本なのだ。

    つまり、スウィフトは「こういう手垢のついた言い回しをドヤ顔で使うやつ、いるよね」というノリでこの表現を載せた。褒めるどころか、標本にして額装した。

    • 1651年、詩人ヘンリー・ヴォーンが「dogs and cats rained in shower」と近い表現を書いている
    • 1652年には劇作家リチャード・ブロームが「It shall rain dogs and polecats」
    • そして1738年、スウィフトがクリシェ標本箱に収録

    語源については「藁葺き屋根で寝ていた猫や犬が雨で落ちてきた」説が有名だが、これは学者の間ではかなり怪しいとされている。正直、猫が屋根から降ってくる街に住みたくない。実際は「犬猫のケンカ」が嵐の比喩、というあたりが穏当な説らしい。

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    じゃあロンドンっ子は何て言うのか

    地域で見事に割れる

    誤解しないでほしいのは、この表現、通じないわけではない。イギリス人なら全員意味がわかる。ただ「わかる」と「使う」の間には、日本人が「いとをかし」を理解できるのと日常で言うかどうかくらいの距離がある。

    イギリス気象庁(Met Office)が実際に調査していて、どしゃ降りの言い方は地域でくっきり割れる。

    • chucking it down — ニューカッスル60%、リーズ58%。北の王者
    • bucketing down — ブラックカントリー(バーミンガム周辺)で57%
    • pissing it down — カーディフ42%、ブライトン38%、リヴァプール35%。品はないが破壊力がある
    • pouring (down) — 全国的に一番強い、無難な優等生

    ロンドンで暮らしていて体感的に一番耳にするのは chucking it downpouringpissing it down は仲のいい友人同士なら普通に飛び交うが、職場や店員さんには使わないほうがいい。上司の前で「クソ雨降ってますね」と言うようなものだ。

    ちなみに It's a bit wet out there みたいな、ずぶ濡れなのに「ちょっと濡れてる」で済ませる言い方も頻出する。これはもう例のアンダーステートメントの世界。迷ったら chucking it down を覚えて帰ってください。 一発でこなれます。

    明日もまた1語、増えます。

    イギリス英語の沼は、思ったより深い。

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