waffle
朝食のワッフルとは血縁が一滴もない。中身のない長話を指す waffle の語源は、子犬のキャンキャンという鳴き声。「無意味に喋り続ける人間は犬と同じ」という17世紀イギリス人の悪意が、そのまま化石になって日常語に残っている。

ロンドンの会議で、上司が10分ほど喋ったあと突然「Sorry, I'm waffling」と言って自分から黙ったことがある。ワッフル? 朝食の話でもしてたっけ? と真顔になった僕に、隣の同僚が小声で「中身のない話をダラダラしてる、って自分で言ってる」と教えてくれた。
で、あとで語源を調べて椅子から落ちそうになった。この waffle、あの格子模様の焼き菓子とは一文字も関係ない。元をたどると、犬が吠える音らしいです。
焼き菓子とは完全な赤の他人
時系列で並べると、この単語の性格の悪さがよく分かる。
waff という動詞があった。意味は「子犬が甲高く吠える」。犬の鳴き声をそのまま写した擬音語だとされている。-le がくっついて waffle が生まれる。つまり「キャンキャン鳴き続ける」。一方、食べ物のワッフルが英語に入ってきたのは1744年。オランダ語の wafel からで、さらに遡ると「蜂の巣」「織る」あたりに行き着く。あの格子模様のことだ。
つまり両者は、たまたま同じ綴りになっただけの完全な他人。「ワッフルみたいに厚みがなくてスカスカな話だから waffle」という説明をたまに見かけるけれど、あれは後付けの妄想である可能性が高い。よくできてるので言いたくなる気持ちは分かる。
使い方と、日本人がやりがちな一文字ミス
実戦での顔は主に3つ。
He waffled on for about an hour.(あの人、1時間くらいダラダラ喋ってた)。on が付くと「延々と」が強調される。It's just a load of waffle.(中身スカスカの文章だね)。不可算なので a waffle と言うと本当に朝食が出てくる。ここ、日本人がわりと踏む地雷。waffler — 話が長くて実がない人。褒め言葉ではないので、面と向かって使うと空気が変わる。そして最大の落とし穴が英米差だ。アメリカ人が「waffle」と言うとき、たいてい非難しているのは1803年由来の「優柔不断」のほう。政治家が waffle する、といえば立場をコロコロ変えることで、喋りの長さは問われていない。イギリスでは逆に「長いのに何も言っていない」が主戦場になる。同じ単語なのに、罪状が大西洋で入れ替わっている。
日本語に一番近いのは「ご相談ベースで恐縮ですが」から始まって45分後に何も決まっていない会議、あるいは新郎の上司の祝辞だと思う。あれを一語で切り捨てられるのは、正直うらやましい。
ちなみにイギリス人は、冒頭の上司みたいに自分の waffle を自己申告してくる。「Sorry, I'm waffling」は謝罪の形をしているが、実際には「まだ喋るけどね」という宣言であることが多い。焼き上がるまで待つしかないところだけは、食べ物のほうとよく似ている。