ロンドン地下鉄、乗客への暴行を止めた検札員を懲戒へ 無賃乗車の2人は有罪
無賃乗車を疑われた2人組が職員と乗客を殴った事件で、割って入った検札員をロンドン地下鉄が懲戒手続きにかけました。殴った2人は有罪、止めた側は処分待ちです。「職員は手を出すな」という方針は職員の安全のためと説明されますが、いちばん確実に守られているのは組織の帳簿ではないか、という話です。

乗客を無賃乗車犯の暴行から守った地下鉄職員、解雇の危機
イブニング・スタンダード紙の報道と、TfLの数字
2026年10月13日、イブニング・スタンダード紙がTube worker 'faces sack after protecting passenger from violent attack by fare dodgers'と報じました。前日の労組RMTの声明がもとになっています。
発端は2025年10月のボンド・ストリート駅です。検札で無賃乗車を疑われた男2人が、職員と居合わせた乗客に殴りかかりました。検札員が割って入って制止。2人はのちに有罪判決を受けています。
それから1年。ロンドン地下鉄(LU)はこの検札員を「社の方針を逸脱した」として懲戒手続きにかけました。どの方針かは明かしていません。RMTは「必要最小限の力だった」と反論し、カーン市長にも書簡を送る構えです。殴られた乗客本人も、市長に抗議の手紙を出しました。
TfLの2026年6月の発表では、2025/26年度の地下鉄の無賃乗車率は5.0%(年度末時点)。ネットワーク全体の損失は年約1億9,000万ポンドで、検札の回数は前年度より5割以上増えています。
「手を出すな」で守られるのは職員か、乗客か、帳簿か
ここからは私見です。「職員は手を出すな」という方針は、職員の安全のためだと説明されます。半分は本当でしょう。ただ、規則が誰を守っているかは、関係者を一人ずつ当てはめてみるのが早い。
まず職員。TfLは同じ6月の発表で、現場の職員が受ける暴力の約4割は運賃の揉め事から始まると自分で書いています。そのうえで検札を5割増やした。揉め事を増やしておいて、揉めたら下がれという指示です。
次に乗客。今回いちばん危なかったのは、たまたま居合わせた乗客でした。検札員が規則どおり下がっていたら、殴られ続けたのは彼です。その本人が「処分するな」と市長に手紙を書いている。規則に守られるはずの人が、規則に抗議しているわけです。
では組織は。英国では、勤務中の従業員の暴力について雇い主が賠償責任を負いえます(2016年の最高裁モリソンズ判決)。制止の力が行き過ぎたと判断されれば、払うのはLUです。踏み倒された運賃は帳簿の損失で済みますが、賠償は桁が違う。ウェイトローズは今年4月、イースターエッグの万引きを止めた店員を解雇し、「売り物に命を懸ける価値はない」と説明しました。正しい言葉です。そして、安くつく言葉でもあります。
最後に、この規則がいちばん確実に守っているのは、暴れる側です。
懲戒の結論と、交通職員を外した法律
次の節目は懲戒の結論ですが、2026年10月15日時点で日程は公表されていません。LUは個別の雇用問題にはコメントしないとしています。カーン市長はTfLの理事長でもあり、RMTと乗客の手紙にどう答えるかが最初の試金石です。
もう1つは法律です。2026年4月に成立した犯罪・警察法(Crime and Policing Act 2026)で、小売店員への暴行は単独の罪になりました。交通機関の職員を加える修正は盛り込まれていません。鉄道警察(BTP)は議会に、同じ駅で働く人が職種によって違う守られ方をすることになると警告していました。駅の売店の店員なら新しい罪の対象、数メートル先の検札員は従来どおりの暴行罪、という具合です。RMTは政府に作業部会の設置を求めていますが、法改正の予定はまだありません。
TfLは2030/31年度までに無賃乗車率を1.5%以下にする目標を掲げています。検札はこれからも増え、揉め事も増えます。そのとき現場に何を許すのか。今回の懲戒は、その答えを先に書いてしまうことになります。
英国のいまを、もう一本。
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