英国で「亜硝酸塩不使用」をうたうベーコンの売上が、2026年9月までの1年で11.4%伸びました。ただ食品基準庁(FSA)は「より安全だという証拠はない」としています。英国のベーコンの亜硝酸塩を実際に減らしそうなのは、売り場の不安でも科学でもなく、交渉中のEUとの食品協定です。
棚は広がり、規制当局は首をかしげる
2026年10月3日、ガーディアンが Nitrite-free bacon sales boom in UK amid fears over curing chemicals と報じました。
調査会社Worldpanel by Numeratorによると、2026年9月6日までの52週で、亜硝酸塩を使わないベーコンの売上は3,480万ポンド(前年比11.4%増)、販売量は220万kg(同8.0%増)。従来品は減っています。Waitroseは不使用シリーズを1年で倍に増やし、Tescoの570店にも9月21日から新商品が並びました。
亜硝酸塩は塩漬けに使う添加物で、食中毒菌を抑え、肉をピンク色に保ちます。不安の出どころは、肉の中で発がん性のある物質に変わりうることです。
ただ、食品基準庁(FSA)はこう言っています。
加工肉を1日50g(ベーコン2枚ほど)食べると大腸がんの相対リスクが16%上がるという研究はあります。ただし、どの成分のせいかは特定されていません。
ここからは私見です。
売り場と規制当局が、同じ棚を見て逆のことを言っています。FSAは2025年10月、英国の現行の上限で消費者は「守られている」と結論しました。ところが同じ月、EUでは引き下げた上限の適用が始まり、EUの食品ルールが適用される北アイルランドもそれに従いました。いまの英国では、ベルファストとロンドンでベーコンの基準が違います。
この差は、科学ではなく通商で埋まりそうです。交渉中の英EU食品協定(SPS協定)は、添加物を含む食品のルールをEUに「動的に」揃える内容です。まとまれば英国の上限も下がり、EUがこの先さらに下げれば英国も自動でついていきます。EU離脱で「自分たちの基準」を取り戻したはずの国の朝食が、ブリュッセルで決まるわけです。
次の節目は英EU首脳会談です。7月の予定がスターマー前首相の辞任で流れ、11月20日前後と報じられていますが、日付は確定していません。実施の目標は2027年半ば。議会の委員会は24か月の移行期間を求めましたが、政府は退けています。製法を変える生産者に残された時間は、長くありません。
もっとも、協定が結ばれても不使用の棚は消えないでしょう。EUの引き下げは「ほぼ半減」と紹介されがちですが、上限の表し方が亜硝酸ナトリウム換算から亜硝酸イオン換算に変わったための見かけの数字です。同じ物差しで測れば、一般の肉製品で150mg/kgから約120mg/kg、つまり2割減です。「ゼロ」を売る商品との差はほとんど縮みません。
売上と販売量から計算すると、不使用ベーコンの平均単価は1kgあたり約15.8ポンド。買い物客はこの値段で、FSAが「ある」とは言っていない安心を買っています。
皮肉なのは、売り場も法律も亜硝酸塩を減らす方向に動いているのに、どちらも決め手が証拠ではないことです。買い物客は不安から、政府は貿易から。そして加工肉のリスクのうち、亜硝酸塩のせいだと特定された部分はまだありません。ベーコンを体に良くする方法で確かなものは、いまのところ一つだけ。食べる量を減らすことです。
英国のいまを、もう一本。
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