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    British English2026年9月16日

    brass monkeys

    「brass monkeys」のタマは砲弾じゃない。海軍語源、計算したら0.04ミリで崩れた

    「It's brass monkeys」は「外、めちゃくちゃ寒い」。パブの物知りおじさんは「軍艦の砲弾置き台が寒さで縮んだから」と語るが、1769年の海事辞典にも、揺れる甲板にも、物理の計算にも、そんな猿はいない。

    「brass monkeys」のタマは砲弾じゃない。海軍語源、計算したら0.04ミリで崩れた

    11月の金曜、職場近くのパブ。煙草を吸いに出ていた同僚のダンが、マフラーをほどきながら戻ってきた。

    「It's brass monkeys out there.」

    真鍮の、猿たち? こっちが聞き返すより先に、カウンターの常連が食いついた。テリー、推定70歳、このパブの雑学担当。

    「知ってるか。ネルソンの時代の軍艦じゃ、大砲の玉を真鍮の台にピラミッドに積んでた。その台をmonkeyと呼んだ。寒いと真鍮が縮んで、玉が転げ落ちる。だから cold enough to freeze the balls off a brass monkey。いいか、下ネタじゃない。海軍の話だ」

    テリーはピーナッツを4粒、ビアマットの上に三角に積んで実演までしてくれた。ダンは「Fascinating」と頷き、僕も頷いた。下品に聞こえて、実は歴史の話。いい話だ。

    帰りの電車で調べた。テリーのピーナッツは、最寄り駅に着く前に全部崩れた。

    01

    海軍説は3回死ぬ

    辞典にも、甲板にも、物理にもいない

    テリーの話はネットでもいちばん有名な説。でも、こう崩れる。

    • 辞典にいない。 1769年に出た英国の海事用語辞典(Falconer『Universal Dictionary of the Marine』)だと、砲弾置き場は「shot-garland」。砲門と砲門のあいだの船腹に横向きに打ち付けた木材で、砲弾サイズの半球形のくぼみが並んでいる。この辞典、monkeyという単語が一度も出てこない
    • 甲板にいない。 軍艦は揺れる。そこに鉄球をピラミッドで積むのは、揺れる山手線の網棚にみかんをピラミッド積みするようなもの。ネルソンの旗艦HMSヴィクトリー(ポーツマスに現存)でも、砲弾は木枠のくぼみに一列で収まっている
    • 物理にいない。 32ポンド砲の玉は直径16センチほど。真鍮と鋳鉄の縮み方の差をざっくり計算すると、気温が30度下がっても0.04ミリ弱。髪の毛の半分。これで玉が落ちるなら、くしゃみでも落ちる

    オックスフォード英語辞典(OED)も、アメリカ海軍の歴史部門も、語源研究家のマイケル・クィニオンも、この説ははっきり否定している。

    テリーは悪くない。下ネタに「海軍の歴史」をかぶせると急に教養っぽくなる。保健体育の教科書を指さして「これは勉強だから」と言い張る中学生と、構造はほぼ同じだと思う。

    02

    最初に凍ったのは、鼻だった

    猿はただの真鍮の置物。落ちる部位は言う人しだい

    今見つかっている最古の例は、イギリスじゃなく1838年のニューヨークの新聞。cold enough to freeze the nose off a brass monkey。凍っていたのは鼻。

    その後も尻尾、耳、ヒゲと、落ちる部位は書く人しだい。「暑すぎて鼻が溶ける」版まであって、メルヴィルも1847年の小説で使っている。金玉が活字に出てくるのは20世紀に入ってから。

    つまり猿はただの真鍮の置物で、「金属の塊でも無事じゃ済まない」という大げさなたとえ。土産物の真鍮の三猿(そう、日光の「見ざる言わざる聞かざる」)が元という説もあるが、時期が合わないという指摘もある。日光の猿がロンドンの寒さを背負ってたら胸アツだったけど、たぶん違う。

    今の使い方はこう。

    • 「It's brass monkeys out there.」で「外、クソ寒い」
    • 後ろ半分は言わない。全員が続きを知っているので、言わなくても下品さは伝わる
    • 同僚との雑談やパブならOK。取引先へのメールには書かない
    • ロンドンっ子は体感5度くらいで言い出す。札幌出身の友人は毎回鼻で笑っている

    次にパブでピーナッツが積まれ始めたら、「Actually, it started with a nose.」と言っていい。実演のほうが面白いのは認めるけど。

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    明日もまた1語、増えます。

    イギリス英語の沼は、思ったより深い。

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