2026年10月1日、英国(北アイルランドを除く)で家庭用電気のVATが半年間ゼロになりました。ところが同じ日に価格上限は4%上がり、試算すると標準的な世帯の電気代は年3ポンドほどしか下がりません。減税の効き目がどこに消えたのか、そして3月末の期限に向けて何が決まるのかを数字で追います。
減税と値上げが同じ日に来た
2026年10月1日、イングランド・スコットランド・ウェールズで家庭用電気の付加価値税(VAT、通常5%)がゼロになりました。期限は2027年3月31日までの半年間です。北アイルランドは対象外で、ガスのVATは5%のまま残ります。政府は標準的な世帯で年45ポンドほど安くなると説明しています。
ところが同じ日、規制当局Ofgemの価格上限は4%上がりました。2026年8月26日付の発表 Changes to energy price cap between 1 October and 31 December 2026 による、口座振替の平均料金は次のとおりです。
| 7〜9月 | 10〜12月 | |
|---|---|---|
| 電気・単価 | 26.11p/kWh(VAT込み) | 26.32p/kWh(VATなし) |
| 電気・基本料金 | 57.19p/日 | 54.83p/日 |
| ガス・単価 | 7.33p/kWh | 7.97p/kWh |
| ガス・基本料金 | 29.04p/日 | 29.68p/日 |
値上げの理由は「中東の紛争によるガス卸価格の上昇」とされています。標準的な世帯の年額は、7月の1,663ポンドから約1,723ポンドに上がりました。
表をよく見ると、電気の単価はVATを外したのに上がっています。7〜9月の26.11ペンスから5%のVATを抜くと24.87ペンス。10月の26.32ペンスと比べると、税抜きの単価は1四半期で5.8%上がったことになります。
年間の使用量を電気2,500kWh・ガス9,500kWhと仮定して計算すると、こうなります。
減税はほぼ全額、値上げに吸い込まれました。請求書を開いた家庭が目にするのは「下がった電気代」ではなく「上がったガス代」です。税金を消すという大技を使っても、中東の戦争が相手では引き分けにすら届きません。
ただし、思わぬところで勝負がついています。熱を作るコストで比べると、効率3倍のヒートポンプは1kWhあたり約8.8ペンス、効率90%のガスボイラーは約8.9ペンス。減税が無ければヒートポンプは約9.2ペンスで負けていました。政府が公式に掲げた理由は「電気は最も多くの家庭が使う燃料だから」という幅広さで、脱炭素ではありません。狙っていない場所で、ちょうど減税分だけ勝ち負けがひっくり返ったわけです。
これから決まることは、日付がはっきりしています。
ここからは私見です。一時的な減税のいちばん高いコストは、終わらせるときに払います。4月にVATを戻せば、電気代は5%上がり、政府は「春に増税した政府」になります。延長すれば、半年のはずの措置が恒久化への道を歩き始めます。2022年に「一時的」に下げられたガソリンの燃料税が、その後何年も据え置かれてきたように。
どちらに転んでも、45ポンドで買えたのは家計の安心ではなく、半年分の時間でした。その間に電気料金そのものを安くする手が出てこないなら、3月の崖は延長という名前で先送りされるだけです。2月23日の数字が、その答え合わせになります。
英国のいまを、もう一本。
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