英国賃貸の審査に通る方法|クレジットヒストリーがない渡英直後の突破法
Passing UK Tenant Referencing Without a Credit History
英国の賃貸審査は「年収が家賃の30倍」が目安で、加えて英国内のクレジットヒストリーを見られます。渡英直後の日本人はこの両方を持っていません。従来の突破法だった「半年分前払い」は2026年5月1日から違法になり、保証人サービスが事実上の必須ルートになりました。
要点
- 収入の目安
- 年収が家賃の30倍(月額家賃の2.5〜3倍の月収)
- 必須の確認
- Right to Rent チェック(eVisaのshare code)
- 前払いでの突破
- 2026年5月1日から違法(上限1ヶ月分)
- 現実的な代替
- 保証人サービス(年間家賃の数%が相場)
- 審査費用
- 借主負担は違法。請求されたら拒否できる
物件は見つかった。内見も済んだ。それでも借りられない——これが渡英直後の日本人が最も多く踏む壁です。
英国の賃貸は、申し込むと referencing という信用調査にかけられます。調査するのは大家ではなく、Goodlord、HomeLet、Rightmove Referencing といった専門業者です。彼らが見るのは主に3点。
- 収入が家賃に対して十分か
- 英国内のクレジットヒストリーに問題がないか
- 前の大家からの推薦(previous landlord reference)
渡英したばかりの人は、1がまだ始まっておらず、2が存在せず、3も英国内には存在しません。制度が想定している「普通の借主」から、構造的に外れているわけです。
さらに厄介なのは、これまでこの壁を越えるために使われてきた方法が、2026年5月1日の法改正で使えなくなったことです。この記事では、現在の制度で何が有効なのかを整理します。
目次
1. referencing で実際に見られること
落ちる理由の内訳
収入 ——「年収が家賃の30倍」
最も広く使われる基準です。月額家賃£1,200の物件なら、年収£43,200が求められる計算になります(1,200 × 30 = 36,000 ではなく、年間家賃£14,400 × 3 = £43,200 という「年間家賃の3倍」で計算する業者もあり、実務上は概ね一致します)。
ロンドンの家賃水準に対して、この基準は相当に厳しいものです。手取りではなく税引き前の年収で見るため、そこは救いですが。
内定通知(offer letter)で代替できる場合があります。 まだ働き始めていなくても、雇用契約書か内定通知に年収が明記されていれば、それを収入証明として受け付ける業者は多いです。渡英前に物件を決めたい場合、これが唯一の武器になります。
クレジットヒストリー ——存在しないことが問題
英国では Experian・Equifax・TransUnion が個人の信用情報を保持しています。渡英直後の日本人は、ここに何のデータもありません。
重要なのは、「悪い記録がある」のではなく「記録が存在しない」ことが不利に働く点です。業者のスコアリングは履歴の厚みを評価するので、真っ白は「判断不能」=リスクとして扱われます。日本での完璧な信用履歴は、英国では一切参照されません。
前の大家からの推薦
日本の大家に英語で推薦状を書いてもらう、という手はあります。ただし業者が電話で裏取りを試みることがあり、日本語しか通じないと確認が取れずに止まります。英語で対応できる連絡先を用意できるかが実務上の分かれ目です。
CCJ・破産歴
County Court Judgment(民事の支払命令)や破産歴があると、ほぼ確実に落ちます。渡英直後の人には無関係ですが、英国生活が長い人で身に覚えのない CCJ が付いている例があります(前住所の未払いが自分名義に紐づくなど)。Experian などで無料の照会ができるので、落ち続けるなら一度確認してください。
実務メモ
- referencing 業者に提出する書類は、英文であることが前提です。日本の在職証明・源泉徴収票は、翻訳を添えても受け付けられないことがあります。英文の employment contract か offer letter を用意するのが確実です。
- 銀行明細(bank statement)の直近3ヶ月分を求められるのが標準です。渡英直後で英国の口座に履歴がない場合、日本の口座の英文明細で代替できるか事前に確認してください。
- 審査に落ちた記録自体は信用情報に残りません。複数の物件に申し込むこと自体はペナルティになりませんが、holding deposit の没収リスクがあるため同時申込は避けてください。
注意
referencing の費用を請求されたら、それは違法です
信用調査の費用は大家・エージェント側の負担です。Tenant Fees Act 2019 により、借主への請求は prohibited payment(禁止された支払い)として明確に違法とされています。保証人の審査費用も同様です。
「審査料£150」「guarantor referencing fee £75」といった請求は、拒否して構いません。詳しくは初期費用と、払ってはいけない金を参照してください。
2. Right to Rent ——避けて通れない在留資格の確認
審査とは別枠の、法律上の義務
イングランドでは、大家は入居者全員(18歳以上)の在留資格を確認する法的義務を負っています。これが Right to Rent チェックです。
これは信用調査とは別枠の話で、通らなければ物件を貸すこと自体が違法になります。大家が神経質になるのは当然なので、身分確認を求められたことを差別と受け取る必要はありません。
日本国籍の場合の手順
BRP(在留カード)は2024年末に廃止され、現在は eVisa に完全移行しています。したがって提示するのは物理的なカードではなく、share code です。
- GOV.UK の Prove your right to rent にアクセス
- UKVI アカウントでログイン
- 目的として**「賃貸(renting)」**を選ぶ
- 表示された share code と自分の生年月日を、大家・エージェントに伝える
目的の選択を間違えないでください。 就労用に発行した share code は賃貸には使えません。日本人の相談で頻出する取り違えです。
観光目的の入国では借りられない
ETA や visitor として入国している状態では Right to Rent に通りません。「まず観光で入って、現地で部屋を決めてからビザを取る」という順序は、この制度上そもそも成立しません。
share code の発行や UKVI アカウントについては、渡英後の手続きガイドで詳しく扱っています。
実務メモ
- share code の有効期限は90日です。物件探しが長引くと切れるので、内見が進んだ段階で発行してください。
- パスポートを更新したら、UKVIアカウントの旅券番号を必ず更新してください。古い番号のまま share code を出すと照会が通りません。
- Right to Rent は lodger(大家と同居する場合)にも適用されます。「間借りだから不要」ということはありません。
3. 2026年5月に消えた突破法と、残った突破法
前払いは違法、保証人が主戦場に
これまで、審査に通らない外国人が使ってきた標準的な突破法は**「家賃を半年〜1年分まとめて前払いする」**ことでした。信用がない代わりに現金を積む、という取引です。
2026年5月1日から、これは違法になりました。契約署名後に請求できる前払い家賃は1ヶ月分までで、違反した大家には最大£5,000の民事制裁金が科されます。
この改正が生んだ副作用
規制の目的は、資金力のある借主が高額前払いで競り勝つ状況を止め、家賃の吊り上げを防ぐことでした。趣旨としては借主保護です。
しかし副作用として、保証人を立てられない層——留学生、渡英直後の移住者——が最も打撃を受けました。業界調査では、借主の5人に1人が保証人を用意できず前払いで対応していたとされます。その逃げ道が塞がれた形です。
結果として、保証人(guarantor)の要求はむしろ厳しくなっています。 法律は保証人を求めること自体は禁じていないためです。
残っている選択肢
| 手段 | 実現可能性 | 注意点 |
|---|---|---|
| 英国在住の保証人を立てる | 知人がいれば最有力 | 英国在住・持ち家・一定の年収が条件になることが多い |
| 保証人サービスを使う | 最も現実的 | 費用がかかる。物件側が受け入れるか要確認 |
| 会社に保証してもらう | 駐在なら有力 | 現地採用では通常不可 |
| lodger として借りる | 審査が緩い | 法的保護が大幅に落ちる |
| 学生寮・コリビング | 審査が別基準 | 割高だが確実 |
補足
「日本の親を保証人に」は、ほぼ通りません
保証人は、借主が払わなかったときに英国の裁判所を通じて取り立てられる相手である必要があります。日本在住・日本国内に資産がある親では、業者側が実効性を確認できないため、まず受け付けられません。
「収入は十分にあるのに」という話ではなく、英国内で強制執行できるかという制度上の問題です。ここを誤解して日本の親の収入証明を揃えても、時間を失うだけになります。
4. 保証人サービスという選択肢
費用と、選ぶときの確認事項
英国には、有料で保証人を引き受ける事業者があります。留学生・海外からの移住者を主な顧客としており、渡英直後の日本人にとって現在最も現実的なルートです。
代表的なのは Housing Hand、UK Guarantor、Your Guarantor といった事業者です。
費用の相場
年間家賃の数%、あるいは月額家賃の一定割合を一括または分割で支払う形が一般的です。月£1,200の物件なら、年間で£400〜900程度を見込んでおくとよいでしょう。金額は事業者と物件条件で大きく変わるため、複数社で見積もりを取ってください。
契約前に必ず確認すること
- 物件側(大家・エージェント)が、そのサービスを保証人として認めるか。 ここが最重要です。サービスに申し込んでから「うちは個人の保証人しか受け付けない」と言われる例があります。先にエージェントに確認してください。
- 保証の範囲。 家賃だけか、損害賠償や原状回復費用も含むか。
- 途中解約時の返金。 早期退去した場合に日割り返金があるか。
- 審査基準。 サービス自体にも審査があり、収入や在学状況を見られます。無条件ではありません。
手数料を借主が払うことの適法性
保証人サービスの利用料そのものは、借主が事業者に直接払うサービス対価であり、Tenant Fees Act の禁止対象ではありません。ただしエージェントが「guarantor referencing fee」として上乗せ請求してくる場合、そちらは違法です。区別してください。
実務メモ
- 内見の申し込み段階で「保証人サービスの利用を予定していますが、御社は受け付けていますか」と先に聞いてください。受け付けない物件に時間を使わずに済みます。
- 大学経由で提携している保証人サービスがある場合、料率が優遇されることがあります。留学の場合は大学の accommodation office に必ず確認を。
- 保証人サービスは加入までに数日〜1週間かかります。holding deposit の15日期限を考えると、物件を押さえてから動き始めるのでは間に合わないことがあります。
5. 断られたとき、それが違法な差別である場合
何が禁止されているか
審査に落ちるのと、差別されるのは別の問題です。線引きを知っておいてください。
違法な拒否
2026年5月1日から、次の理由による入居拒否が明確に違法化されました。
- 生活保護等の受給者であること(benefit claimants)
- 子どもがいること(families with children)
違反には最大£7,000の民事制裁金が科されます。「No DSS」「No children」といった募集条件は、現在は違法です。
加えて、Equality Act 2010 により、人種・国籍・宗教・性別・性的指向・障害・年齢などの保護特性を理由とする拒否は従来から違法です。「外国人には貸さない」「日本人はお断り」は、これに該当します。
適法な拒否
一方、次は差別ではありません。
- 収入が基準に満たない
- Right to Rent チェックに通らない(在留資格がない)
- 保証人を立てられない
- 信用情報に CCJ がある
つまり**「日本人だから断る」は違法、「収入証明が出せないから断る」は適法**です。実際には後者の形をとった前者が存在するため、判断は難しいのですが、露骨な物言い(募集文や口頭でのやり取り)が残っていれば争えます。
相談先
- Equality Advisory and Support Service (EASS) — 差別に関する公的な相談窓口
- Shelter — 住宅問題専門の慈善団体
- Citizens Advice — 全般的な無料相談
- 物件所在地の自治体の private housing team — 執行権限を持つ
職場での差別についてはハラスメント・職場トラブルの相談先でも Equality Act 2010 を扱っています。根拠法は同じです。
補足
断られ方を記録しておく
拒否の理由が適法なものか違法なものかは、その場では判断がつかないことが多いものです。ただ、やり取りがメールで残っていれば後から争える一方、電話で言われたことは立証できません。
問い合わせと申し込みは、できるだけメールに寄せてください。「収入証明が不足している」と書面で言われたのであれば、それは適法な拒否として納得できます。理由を書面にすることを避ける相手のほうが、問題を抱えています。
6. 渡英直後の現実的な順序
1軒目を「つなぎ」と割り切る
以上を踏まえた、最も詰まりにくい進め方です。
順序
- 渡英前:内定通知・雇用契約書(英文、年収明記)を確保する。UKVI アカウントを整え、share code を出せる状態にしておく。
- 渡英直後の1〜2ヶ月:審査の要らない住まいで凌ぐ。lodger 契約、コリビング、サービスアパートメント、学生寮など。ここで住所を確定させることが最重要です。
- 住所ができたら:銀行口座を開設し、給与振込を始める。council tax や光熱費の支払いを自分名義にする。これが英国のクレジットヒストリーの出発点になります。
- 3〜6ヶ月後:英国の銀行明細と在職実績を揃えて、本命の物件に申し込む。
なぜこの順序なのか
英国では、住所がないと銀行口座が作れず、口座がないと住所の証明ができないという循環に多くの人が引っかかります。この構造と突破法は渡英後の手続きガイドで詳しく扱っています。
そして、この順序が現実的になったのは2026年5月1日の改正のおかげでもあります。改正前は1軒目に12ヶ月縛られたため、「つなぎ」という発想が取りにくかった。今は2ヶ月前通知でいつでも出られるので、1軒目で妥協して、住みながら本命を探す戦略が取れます。
土地勘のない状態で12ヶ月分の判断をするより、3ヶ月住んでから決める方が、確実に良い部屋にたどり着きます。
よくある質問
参考・公式情報
- GOV.UK - Renters' Rights Act: overview for tenants
- GOV.UK - Guide to the Renters' Rights Act
- legislation.gov.uk - Renters' Rights Act 2025
- legislation.gov.uk - Tenant Fees Act 2019 Schedule 1
- GOV.UK - Tenancy deposit protection
- Shelter England - 借主の権利に関する法情報
- ONS - Private rent and house prices, UK
- SpareRoom - UK Rental Index
- Transport for London - Adult fares and Travelcard prices
料金・時刻・制度は変更されます。本記事は2026年8月時点の情報です。渡航前に各公式サイトで最新情報をご確認ください。
本記事は情報提供を目的としたもので、法的助言ではありません。ここで扱う制度は イングランドのものです(スコットランド・ウェールズ・北アイルランドは別の法律が適用されます)。 Renters' Rights Act 2025 は段階的に施行が続いており、記載内容が最新でない可能性があります。 実際のトラブルにあたっては GOV.UK・Shelter の最新情報を確認し、深刻な事案(違法な立ち退き、 敷金の未返還、健康被害のある住環境など)では Citizens Advice、地元自治体の private housing team、または事務弁護士にご相談ください。