Moving Out and Getting Your Deposit Back
入居初日に撮った写真が、1年後に数万円から数十万円を左右します。敷金は保護スキームに預けられており、大家が勝手に引くことはできません。合意できなければ**無料の裁定制度(ADR)** が使えます。退去通知の出し方から、争い方までの実務をまとめます。
敷金の返還は、英国で暮らす日本人が最も多く損をしている場面です。理由ははっきりしていて、「もめたくない」「英語で争いたくない」と思って、提示された減額をそのまま受け入れてしまうからです。
しかし英国の制度は、借主にかなり有利にできています。敷金は大家の手元にはなく、政府認可の保護スキームが保持しています。大家が一方的に引くことはできず、合意できなければ無料の裁定手続きに進みます。そして裁定では、立証責任は大家側にあります。
つまり、証拠さえ持っていれば勝てる構造です。そしてその証拠は、入居初日に10分で作れます。
これを読んでいるのが入居前なら、ここだけでも実行してください
退去時の争いは、ほぼすべて「その傷は入居前からあったのか」をめぐるものです。証明できるのは記録だけです。
まともな大家・エージェントは、入居時に inventory を作成します。部屋の状態、家具のリスト、既存の傷や汚れを記録した書類で、写真つきのこともあります。
受け取ったら必ず読み、実物と照合してください。 そして食い違いがあれば、署名する前に指摘して修正させます。署名した inventory は、退去時に大家側の証拠になります。
inventory が作られない場合(個人の大家や lodger 契約で多い)、自分で作ってください。
最後のステップが決定的です。 メールで送っておけば、日付と内容が第三者に検証可能な形で残ります。返信がなくても構いません。送った記録があれば十分です。
所要時間は10分程度です。これをやるかどうかで、退去時の交渉力がまったく変わります。
実務メモ
注意
敷金が保護されているか、入居30日以内に確認する
大家は敷金を受け取ってから30日以内に、政府認可のスキーム(DPS / MyDeposits / TDS)へ預ける法的義務があります。あなたには prescribed information(どこに、いくら、いつ預けたか)が通知されます。
30日を過ぎても通知が来なければ、必ず確認してください。 3つのスキームはいずれも自社サイトで預託の有無を検索できます。
未保護だった場合、借主は敷金の1〜3倍の賠償金を裁判所に請求できます(敷金そのものの返還とは別に)。月£1,000の部屋なら、敷金£1,154に加えて最大£3,462です。
これは日本人が最も見逃している権利です。詳しくは初期費用と、払ってはいけない金を参照してください。
2ヶ月前・書面・家賃支払日以前
2026年5月1日以降、借主はいつでも退去できます。条件は3つです。
家賃の支払日が毎月1日だとします。5月31日に退去したい場合、3月31日までに通知を出す必要があります(4月・5月の2ヶ月分)。
「2ヶ月前」を漠然と数えて4月10日に出すと、退去日は6月30日にずれます。1ヶ月分の家賃が余計にかかるので、日付は正確に計算してください。
最後の項目を落とさないでください。「通知を受け取っていない」と言われるのが、最もよくあるトラブルです。返信が来なければ追って再送し、その記録も残します。
そして退去日は曖昧に書かないこと。「2ヶ月後に出ます」ではなく、上の数え方で計算した具体的な日付を明記してください。日付が特定されていないと、通知の効力そのものが争いになります。
契約書に「12ヶ月の固定期間」と書かれていても、現行法の下では効力を持ちません。契約は periodic tenancy に転換されており、2ヶ月前通知で終了できます。詳しくは契約形態の地図を参照してください。
大家と同居する lodger(excluded licence)には、この規定は適用されません。契約書に定めた通知期間に従うことになります。
争点はほぼここに集約される
大家は、通常の使用による劣化(fair wear and tear)を理由に敷金から引くことはできません。引けるのは、通常の使用を超える損傷や汚損です。
この線引きが、退去交渉のほぼすべてです。
重要な原則があります。大家は「新品にする費用」を請求できません。
たとえば耐用年数10年のカーペットを、8年使った時点であなたが汚したとします。大家が全面張り替えをしても、残りの2年分(元の価値の20%)しか請求できません。これを apportionment(按分)といい、ADR の裁定でも当然の前提として適用されます。
「カーペットを張り替えたので£800」と請求されたら、そのカーペットが何年前に設置されたものかを聞いてください。答えられない場合、その請求は通りません。
「退去時に専門業者のクリーニングを入れること」を義務づける条項は、Tenant Fees Act 2019 の下では原則として無効です。
求められるのは「入居時と同程度の清潔さ」であって、プロの清掃を入れることではありません。自分で掃除して同程度にできるなら、それで足ります。
ただし実務上は、入居時にプロの清掃が入っていた物件で、退去時に明らかに汚れている場合、清掃費の請求は正当と判断され得ます。ここでも入居時の写真が効きます。
実務メモ
無料のADRがある
退去後、大家から敷金の返還額が提示されます。減額に納得できない場合の手順です。
まず、減額の根拠を項目ごとに示すよう求めます。
大家がこれを示せない項目は、そもそも請求として成立していません。多くの場合、この段階で減額が縮みます。
合意できなければ、敷金を預かっているスキーム(DPS / MyDeposits / TDS)の ADR(Alternative Dispute Resolution) を使います。
入居時の写真がある側が、ほぼ勝ちます。 これが、この記事の冒頭で入居初日の撮影を強調した理由です。
ADR は使えません(スキームに預けられていないため)。この場合は County Court に申し立てて、敷金の返還と1〜3倍の賠償金を請求します。少額訴訟(small claims track)はオンラインで申し立てでき、手数料も低額です。
大家にとっては非常に不利な状況なので、「未保護である」と指摘した時点で全額返還に応じることが多いです。
ヒント
英語での交渉に不安がある場合
ADR は書面手続きなので、口頭で議論する必要はありません。時間をかけて書けます。翻訳ツールを使っても構いません。
無料で相談できる窓口もあります。
「英語が不安だから諦める」のは、最ももったいない選択です。制度は借主に有利にできています。
順番に潰す
特に UKVI アカウントの住所更新は忘れがちです。 在留資格に関わる通知が届かなくなります。手続きは渡英後の手続きガイドで扱っています。
料金・時刻・制度は変更されます。本記事は2026年8月時点の情報です。渡航前に各公式サイトで最新情報をご確認ください。
本記事は情報提供を目的としたもので、法的助言ではありません。ここで扱う制度は イングランドのものです(スコットランド・ウェールズ・北アイルランドは別の法律が適用されます)。 Renters' Rights Act 2025 は段階的に施行が続いており、記載内容が最新でない可能性があります。 実際のトラブルにあたっては GOV.UK・Shelter の最新情報を確認し、深刻な事案(違法な立ち退き、 敷金の未返還、健康被害のある住環境など)では Citizens Advice、地元自治体の private housing team、または事務弁護士にご相談ください。
退去時のデポジット交渉で実際にあったやり取りや、ADRを使ってみた結果があれば教えてください。inventoryの残し方で工夫した点も歓迎です。
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