職場のハラスメント・トラブルの相談先|Equality Act 2010とAcasの使い方

    Workplace Harassment in the UK: Your Rights and Where to Get Help

    Equality Act 2010が守る範囲、2024年10月に始まった雇用主のセクハラ防止義務、社内での申し立て方法から、Acas・Citizens Adviceの使い方までを整理しました。

    「これはハラスメントなのか、それとも自分の受け止め方の問題なのか」——言葉の壁や職場文化の違いもあり、海外で働く中でこの判断に迷う人は少なくありません。英国では、ハラスメントに関する保護と、それに対する雇用主の義務が法律で明確に定められています。

    この記事では、法律が守る範囲、雇用主に課された義務、そして実際に何かがあったときの相談先と手順を整理します。

    1. Equality Act 2010が守る範囲

    英国の差別・ハラスメントに関する基本法であるEquality Act 2010は、以下の「保護特性(protected characteristics)」に関連するハラスメント・差別を禁止しています。

    • 年齢(age)
    • 障害(disability)
    • 性別適合(gender reassignment)
    • 婚姻・シビルパートナーシップ(marriage and civil partnership)
    • 妊娠・出産(pregnancy and maternity)
    • 人種(race。国籍・民族的出身・肌の色を含む)
    • 宗教・信条(religion or belief)
    • 性別(sex)
    • 性的指向(sexual orientation)

    ハラスメントの定義は、上記の保護特性に関連する「望まない言動(unwanted conduct)」であって、それが当人の尊厳を傷つけたり、威圧的・敵対的・屈辱的・不快な環境を作り出したりする目的または効果を持つもの、とされています。行為者に悪意がなかったとしても、受け手にとってその効果があれば該当しうる点が重要です。

    2. 2024年10月〜:雇用主のセクハラ防止義務

    2024年10月26日、Worker Protection (Amendment of Equality Act 2010) Act 2023が施行され、雇用主には**セクシュアルハラスメントを防止するための「合理的な措置」を積極的に取る義務(positive duty)**が新たに課されました。

    これは、実際にハラスメントの申し立てが起きてから対応する「事後対応型」から、申し立てがなくても事前にリスクを評価し、予防策を講じる「予防型」への転換を意味します。具体的には、ハラスメント防止ポリシーの整備、研修の実施、相談窓口の設置などが「合理的な措置」の例として挙げられています。

    雇用主がこの義務を怠っていたとEmployment Tribunalが認定した場合、ハラスメントに対する損害賠償額を最大25%増額できる権限が審判所に与えられています。

    会社に明確なハラスメント防止ポリシーや相談窓口が存在しない場合、それ自体が「合理的な措置を取っていない」ことの一つの兆候になり得ます。

    3. 社内での申し立て(grievance)の進め方

    多くの場合、いきなりEmployment Tribunalに申し立てるのではなく、まず社内の**grievance procedure(苦情申し立て手続き)**を利用することが推奨されます。

    1. 記録を残す:日時、場所、発言内容、居合わせた人をできるだけ具体的にメモしておく。可能であればメールやメッセージなど、時系列がわかる証拠を保存する。
    2. 社内手続きを確認する:written statementや従業員ハンドブックに記載されているgrievance procedureの手順(誰に、どの形式で申し立てるか)を確認する。
    3. 書面で申し立てる:口頭だけでなく、メールなど記録に残る形で申し立てる。何が起きたか、いつ・誰によるものか、どのような対応を求めるかを明記する。
    4. 会社の対応を記録する:調査の有無、結果、対応内容も含めて記録しておく。

    社内手続きが機能しない、または申し立てたこと自体を理由に不利益な扱い(victimisation)を受けた場合は、それ自体が別の請求原因になり得ます。

    4. Acas・Employment Tribunalへ進む場合

    社内での解決が難しい場合、以下のステップが選択肢になります。

    1. Acasに相談する(0300 123 1100):無料・秘密厳守で相談でき、会社との調停(conciliation)を仲介してもらうことも可能です。
    2. Acas Early Conciliation:Employment Tribunalへの申し立て前に、原則として必ず通る手続きです。ここで和解に至るケースも少なくありません。
    3. Employment Tribunalへの申立て(ET1):多くのハラスメント・差別関連の請求には、問題が発生した日からおおむね3か月マイナス1日という厳しい期限があります。Acasへの通知を行った期間は、この期限計算から除外されるため、迷っている場合もできるだけ早くAcasに連絡することが重要です。

    実際の申立て手続き(ET1の書き方、証拠提出、審理の流れ)については、サービスチャージ未払いで審判所に申立てた記録で、賃金請求のケースをもとに具体的な手順を公開しています。手続きの流れ自体はハラスメント・差別の請求でも共通する部分が多くあります。

    5. Acas以外の相談先

    • Citizens Advice:契約書の読み方から、次に取るべき手続きまで、対面・電話・オンラインで無料相談ができます。
    • 労働組合(trade union):加入している場合、団体としての交渉力や、代理人としてのサポートを受けられます。
    • Equality Advisory and Support Service(EASS):Equality Act 2010に関する専門的な相談窓口です。
    • 在英日本国大使館・領事館:法律的な代理人にはなれませんが、緊急時の情報提供や、必要に応じて専門機関の案内を受けられる場合があります。

    どの窓口も、ビザのステータスや在留資格に関わらず利用できます。「ビザに影響するかもしれない」という不安から相談をためらう必要はありません。

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