IHS(移民健康保険料)とは|イギリスで医療がどこまで無料か
The Immigration Health Surcharge and What It Covers
ビザ申請のときに払った年額£1035前後のあの金額が、英国での医療費の正体です。これを払った人は GP も救急も入院も無料。逆に払っていない短期滞在者には請求が来ます。自分がどちら側なのかを、はっきりさせておく話です。
いま緊急なら
意識がない・呼吸が苦しい・大量出血・胸の痛みなど生命に関わる状態なら 999。 緊急かどうか判断がつかないときは 111(24時間・無料・通訳を頼めます)。
要点
- 一般の成人
- 年額£1035
- 学生・YMS(ワーホリ)・18歳未満
- 年額£776
- 支払い方法
- ビザ申請時に滞在年数ぶんを一括前払い
- 免除
- 海外からの6ヶ月以下の申請は課金なし
- 払うと無料になるもの
- GP・A&E・救急車・入院・専門医
- 払っても有料のもの
- 処方箋・歯科・眼科(定額の自己負担)
英国のビザを申請したとき、ビザ代とは別に数十万円を請求されて驚いた人は多いはずです。それが IHS(Immigration Health Surcharge/移民健康保険料) です。
3年のビザなら年額£1035 × 3年で£3105。日本円にすると数十万円が、申請の時点で一括で飛びます。
この金額の意味を理解していない人が驚くほど多く、結果として 「保険に入っていないから病院に行けない」と思い込んで受診を我慢するという事態が起きます。実際には逆で、あなたはすでに支払い済みです。使わないほうが損をします。
この記事では、IHS が何の対価なのか、そして「無料」の範囲がどこまでなのかを整理します。
目次
1. IHS とは何の対価か
保険ではなく、利用資格の購入
IHS は民間の医療保険ではありません。NHS を居住者と同じ条件で使う権利を、前払いで買うものです。
日本の健康保険が毎月の給与から天引きされるのに対し、IHS はビザ申請の一点で滞在期間ぶんをまとめて払います。分割はできません。
金額
| 対象 | 年額 |
|---|---|
| 一般の成人(Skilled Worker など) | £1035 |
| 学生ビザ・その扶養家族 | £776 |
| Youth Mobility Scheme(ワーホリ) | £776 |
| 申請時点で18歳未満の子ども | £776 |
扶養家族がいる場合、一人ひとりに同額がかかります。4人家族なら4人分です。
計算の癖
- ビザの有効期間ぶんが対象で、6ヶ月単位で切り上げられます
- 海外からの申請で滞在が6ヶ月以下なら、課金されません
- 6ヶ月超〜12ヶ月未満は、1年分として課金されます
つまり7ヶ月のビザでも1年分を払うことになります。
補足
ワーホリ(YMS)は割引対象です
Youth Mobility Scheme は学生と同じ£776の区分です。2年間なら£1552。一般区分だと思って多く見積もっていた人は、予算を組み直せます。
2. 無料になるもの、ならないもの
「NHS は無料」は半分だけ正しい
IHS を払った人(および英国の通常居住者)にとって、以下は無料です。
無料
- GP の診察
- 専門医(consultant)の診察・治療 ※GP の紹介経由
- A&E(救急外来)
- 救急車
- 入院・手術
- 妊娠・出産に関わる医療
- 検査(血液検査、レントゲン、MRI など)
- がん治療をはじめとする専門的治療
日本のような窓口3割負担はありません。手術を受けても入院しても、請求書は来ません。
有料(定額の自己負担)
「NHS は無料」という言葉が独り歩きしていますが、正確には 診療は無料、処方箋と歯科と眼科は定額負担 です。この3つが例外だと覚えておけば足ります。
そもそも対象外
- 美容目的の処置
- 一部の不妊治療(地域の判断による)
- 私費診療(Private)を自分で選んだ場合
実務メモ
- IHS を払っていれば、入院や手術でも請求書は来ない。医療費で破産するという概念が英国にはない。
- 処方箋・歯科・眼科の3つだけが自己負担。ここを知らないと薬局で驚くことになる。
- GP の紹介なしに専門医に直接かかることは、原則としてできない。
3. 自分がどの立場かを確認する
旅行者・在住者・短期滞在の線引き
NHS の費用負担は、ビザの種類ではなく 「通常居住者(ordinarily resident)と扱われるか」 で決まります。
無料で使える人
- IHS を払って6ヶ月超のビザを持っている人
- 永住権(ILR)保持者
- 英国市民
有料になる人
- 観光ビザ・ETA での短期滞在者
- ビザなしで滞在している人
- IHS の対象外だった短期ビザの保持者
ただし短期滞在者でも、次のものは常に無料です。
- A&E での初期の診察・応急処置
- 111 への電話相談
- GP の診察(登録すれば旅行者でも無料)
- 感染症の診断・治療(公衆衛生上の理由から)
- 性感染症の検査・治療
- 緊急避妊
つまり旅行者でも、A&E に運ばれて最初に診てもらう分には請求されません。請求が発生するのは、そのまま入院したり継続的な治療に入ったりした場合です。
旅行者は民間保険が必須
短期の旅行で入院・手術が必要になると、数千ポンド単位の請求が来ます。海外旅行保険は、この場面のために入るものです。IHS を払っていない滞在では、保険なしは推奨できません。
注意
「NHS を使うとビザに響く」は誤りです
IHS を払った人が NHS を利用することは、制度が想定している正しい使い方です。利用実績がビザ更新や永住申請に不利に働くことはありません。ただし、IHS 対象外の立場で高額な治療を受け、その費用を未払いのまま放置した場合は、その後のビザ申請が拒否される事由になります。請求が来たら必ず対応してください。
4. 返金されることがある
多くの人が取り逃している
IHS は前払いなので、払いすぎた分が返ってくる場面があります。自動では戻らないことが多く、申請が必要です。
返金の対象になる主なケース
- ビザが不許可になった:全額が自動で返金されます
- 申請を取り下げた:全額返金
- 申請したより短い期間のビザが出た:差額が返金
- ビザの期間満了前に英国を離れる:残期間ぶんが返金される場合があります
- 医療職として英国の医療機関で働いている:職種によっては免除・還付の対象
最後の点は見落とされがちです。NHS や社会福祉の分野で働く人向けの Health and Care Worker ビザは、IHS が免除されます。
期間の途中で帰国する場合
ビザを残したまま英国を離れるだけでは返金されません。ビザを正式に放棄(withdraw)する手続きを取った場合に、未使用期間の返金対象になります。
数年分を前払いしている人にとっては相応の金額になるので、途中帰国が決まった時点で確認する価値があります。
実務メモ
- ビザ不許可のときの IHS は自動返金される。ここは申請不要。
- 申請より短い期間のビザが出たら、差額が戻る。通知が来なくても自分で確認する。
- Health and Care Worker ビザは IHS 免除。該当職種なら申請時に確認する。
よくある質問
参考・公式情報
- NHS - Register with a GP surgery
- NHS - Get help with prescription costs
- NHSBSA - Prescription prepayment certificate (PPC)
- NHS - Understanding NHS dental charges
- GOV.UK - Pay for UK healthcare as part of your immigration application
- GOV.UK - NHS entitlements: migrant health guide
料金・時刻・制度は変更されます。本記事は2026年8月時点の情報です。渡航前に各公式サイトで最新情報をご確認ください。
本記事は NHS の制度と手続きを説明する情報提供であり、医学的な助言・診断では ありません。症状の判断は必ず医療者に委ねてください。ここで扱う制度は イングランドのものです(スコットランド・ウェールズ・北アイルランドでは 処方箋が無料であるなど、負担の仕組みが異なります)。患者負担額は毎年4月1日に 改定されるため、受診前に NHS の公式ページで最新額をご確認ください。