イギリスの歯科と眼科|NHSで診てもらえるか、一時帰国で治すか

    NHS Dentists and Opticians: Costs and Availability

    NHS の歯科は Band 1 が £27.90、Band 3 でも £332.10 と、日本の自費診療より安く済みます。問題は金額ではなく、**新規患者を受け付けている診療所がほとんどない**ことです。そのため「一時帰国で治す」が現実的な選択肢として浮上します。その損得を計算します。

    2026年8月時点の情報

    いま緊急なら

    意識がない・呼吸が苦しい・大量出血・胸の痛みなど生命に関わる状態なら 999。 緊急かどうか判断がつかないときは 111(24時間・無料・通訳を頼めます)。

    要点

    歯科 Band 1
    £27.90(検診・レントゲン・歯石除去)
    歯科 Band 2
    £76.60(詰め物・抜歯・根管治療)
    歯科 Band 3
    £332.10(冠・入れ歯・ブリッジ)
    最大の障壁
    NHS 歯科の新規受付がほぼない
    private の目安
    検診£50〜、詰め物£100〜、冠£500〜
    眼科
    視力検査・眼鏡は原則自己負担

    英国の医療で、日本人が最も強い不満を持つのが歯科です。

    料金だけを見れば悪くありません。NHS の歯科治療は3段階の定額制で、最も重い Band 3(冠・入れ歯・ブリッジ)でも £332.10。日本の自費診療でセラミックの冠を入れることを思えば、むしろ安い。

    問題は そこに辿り着けない ことです。NHS の歯科診療所は慢性的に不足しており、新規患者の受付を停止しているところが大半を占めます。「NHS 歯科難民(dental desert)」という言葉が英国メディアで定着しているほどで、これは外国人だから冷遇されているのではなく、英国人も同じ状況に置かれています。

    結果として、在英日本人の間では 一時帰国のついでに日本で治す という選択が広く行われています。この記事では、NHS・private・一時帰国の3択を、金額と現実性の両面から比較します。

    1. NHS 歯科の料金(3段階の定額制)

    何回通っても1コース分

    NHS の歯科治療は、内容に応じて3つの Band に分類され、1つの治療コースにつき1回だけ課金されます。

    Band内容料金
    Band 1検診、診断、レントゲン、歯石除去、予防的処置£27.90
    Band 2詰め物、抜歯、根管治療£76.60
    Band 3冠(クラウン)、入れ歯、ブリッジ£332.10

    同じ Band 内なら、何本治療しても、何回通っても定額です。 虫歯を5本まとめて治しても Band 2 の £76.60。ここが日本の出来高払いと決定的に違う点で、まとめて治すほど得になります。

    Band 1 の治療中に虫歯が見つかって Band 2 の処置が必要になった場合、差額だけを払います(Band 1 の £27.90 を払った後に Band 2 になれば、追加は差額分)。

    無料になる人

    • 18歳未満
    • 19歳未満で全日制の教育を受けている
    • 妊娠中、または過去12ヶ月以内に出産した
    • 一定の給付を受給している
    • NHS Low Income Scheme の対象

    妊娠中の歯科治療が無料になる点は見落とされがちです。maternity exemption certificate があれば、検診から治療まで全額免除されます。

    緊急の場合

    激しい歯痛や外傷は urgent dental treatment として扱われ、Band 1 と同額の £27.90 で応急処置を受けられます。登録していない診療所でも対応してもらえます。

    歯が痛くて眠れないという状態なら、111 に電話すれば緊急の歯科を案内してもらえます。

    実務メモ

    • 同じ Band 内なら何本治しても定額。虫歯が複数あるなら、まとめて治療計画を立ててもらうほうが安い。
    • 妊娠中と出産後12ヶ月は歯科が無料。証明書の取得を忘れずに。
    • 緊急の歯痛は登録なしでも診てもらえる。111 に電話すれば案内される。

    注意

    「NHS の患者として受け付けているか」を必ず確認する

    同じ診療所が NHS と private の両方をやっていることが普通にあります。予約時に NHS 患者として受け付けているかを確認しないと、private 料金で請求されます。「Are you taking on new NHS patients?」が最初の質問です。

    2. NHS 歯科を実際に見つける

    最大の難関はここ

    料金表より重要なのが、受け付けている診療所を見つけることです。

    歯科には診療圏がない

    GP と違い、歯科には診療圏(catchment area)がありません。どこの診療所にでも申し込めます。 職場の近く、あるいは少し離れた郊外まで範囲を広げると、見つかる確率が上がります。

    ロンドン中心部は競争が激しいので、Zone 3〜4 まで視野に入れると現実味が出てきます。

    探し方

    NHS の公式サイトで、郵便番号から「新規患者を受け付けている歯科」を絞り込めます。ただし表示が最新でないことが多く、電話で直接確認するのが確実です。

    待機リストに入る

    「今は満杯だが、待機リストには載せられる」という診療所は多くあります。数ヶ月から1年待つこともありますが、登録しておいて損はありません。複数の診療所の待機リストに同時に載せても構いません。

    これは長期戦なので、渡英して落ち着いたら、健康なうちに申し込んでおくのが正解です。歯が痛くなってから探し始めると間に合いません。

    一度登録すれば継続できる

    GP と違って歯科は「登録」という概念が弱く、しばらく通わないと患者リストから外されることがあります。半年〜1年ごとの検診(Band 1)に通っておくと、関係を維持できます。

    実務メモ

    • 歯科に診療圏はない。ロンドン中心部で見つからなければ郊外まで広げる。
    • 複数の診療所の待機リストに同時に載せてよい。健康なうちに申し込む。
    • 定期検診に通っておくと患者リストから外されない。年1回の Band 1 が保険になる。

    3. private と一時帰国、どちらが得か

    多くの在英日本人が直面する計算

    NHS の歯科が見つからない場合、選択肢は2つです。

    private で治す

    英国の private 歯科の相場(ロンドン)は概ね次のとおりです。

    処置目安
    検診£50〜100
    歯石除去(hygienist)£60〜120
    詰め物£100〜250
    根管治療£400〜1,000
    冠(クラウン)£500〜1,200
    インプラント£2,000〜3,500

    待たずに済み、予約も取りやすく、設備も新しいことが多い。ただし金額は NHS の数倍から十数倍です。

    一時帰国して日本で治す

    日本の健康保険を使える場合、虫歯の治療は数千円で済みます。往復の航空券を10万円としても、複数本の治療が必要なら十分に元が取れる計算になります。

    ただし前提条件があります。

    • 日本の住民票が残っているか:海外転出届を出していると、日本の健康保険は使えません。この場合は自費診療になり、金額の優位性が薄れます
    • 治療期間:根管治療や冠は複数回の通院が必要で、1〜2週間の滞在では終わらないことがあります
    • 経過観察:問題が起きたときに、日本の歯科医にすぐ相談できない

    現実的な使い分け

    多くの在英日本人が採っているのは、次のような組み合わせです。

    • 緊急・応急処置:英国の NHS(Band 1 の £27.90)
    • 予防・クリーニング:英国の private hygienist(年1〜2回)
    • 大がかりな治療:一時帰国のタイミングでまとめて

    歯が痛み出してから帰国便を探すのではなく、帰国予定に治療をぶつけるという発想の転換が要ります。

    補足

    海外転出届を出していると日本の保険は使えません

    一時帰国での治療を計画に入れるなら、住民票をどうしているかが決定的です。海外転出届を出した状態では日本の健康保険が使えず、自費診療になります。滞在の長さと帰国の頻度を踏まえて、渡英時点で判断しておく問題です。

    4. 眼科と眼鏡

    歯科より単純だが、原則自己負担

    眼科(optician)は歯科より話が単純です。視力検査も眼鏡も、原則として自己負担です。

    費用の目安

    項目目安
    視力検査(sight test)£20〜30
    眼鏡(フレーム+レンズ)£50〜200
    コンタクトレンズ月£15〜30

    Specsavers、Vision Express、Boots Opticians といったチェーンが主流で、2本目が無料といったキャンペーンを常時やっています。日本より安く作れることも珍しくありません。

    無料になる人

    • 16歳未満
    • 16〜18歳で全日制の教育を受けている
    • 60歳以上
    • 糖尿病または緑内障と診断されている
    • 40歳以上で緑内障の家族歴がある
    • 一定の給付受給者、NHS Low Income Scheme 対象者

    該当する場合、視力検査が無料になり、眼鏡代にも補助(optical voucher)が出ます。

    目の病気は NHS の管轄

    視力検査は自己負担ですが、目の病気やけがは通常の医療として NHS で無料です。

    • 急な視力低下、視野の欠損
    • 目の痛み、充血が続く
    • 光がまぶしい、飛蚊症が急に増えた

    こうした症状は眼鏡屋の話ではなく、GP か 111、緊急なら A&E(大きな病院には眼科の緊急窓口 eye casualty があります)の領域です。

    コンタクトレンズを日本から持ち込む場合

    度数の合うものを日本でまとめ買いして持ち込む在住者は多いですが、処方箋(prescription)は英国のものが必要になる場合があります。オンラインで購入する際に求められることがあるため、英国で一度検査を受けて処方箋を作っておくと後が楽です。

    実務メモ

    • 眼鏡はチェーン店のキャンペーンを使うと日本より安いことがある。2本目無料は常時やっている。
    • 目の病気やけがは NHS で無料。視力検査が自己負担なだけで、疾患は別枠。
    • 急な視力低下は眼鏡屋ではなく医療の領域。大病院の eye casualty に直接行ける。

    よくある質問

    参考・公式情報

    料金・時刻・制度は変更されます。本記事は2026年8月時点の情報です。渡航前に各公式サイトで最新情報をご確認ください。

    本記事は NHS の制度と手続きを説明する情報提供であり、医学的な助言・診断では ありません。症状の判断は必ず医療者に委ねてください。ここで扱う制度は イングランドのものです(スコットランド・ウェールズ・北アイルランドでは 処方箋が無料であるなど、負担の仕組みが異なります)。患者負担額は毎年4月1日に 改定されるため、受診前に NHS の公式ページで最新額をご確認ください。

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