海外旅行保険・カード付帯保険に請求する|盗難・紛失の手続き
Making an Insurance Claim After Theft or Loss
請求が通らない理由は、たいてい補償の中身ではなく手続きの順番にあります。警察への届出が期限内か、証明を揃えられるか、そもそも自分がどの保険に入っているか。ここを押さえれば、請求は事務作業になります。
いま危険な状況なら
身に危険がある、犯人がまだその場にいる、けがをしたなら 999。 すでに終わったことの通報は 101(緊急でない警察の窓口)。銀行を名乗る不審な連絡は、いったん切って 159 にかけ直します。
まず、この順番でやってください
- 1
被害の当日警察に届け出て受理番号を取る
多くの保険が「24時間以内の届出」を条件にしています。ここを外すと、あとの手続きがすべて無駄になります。
- 2
被害の当日保険会社に第一報を入れる
受理番号が出るのを待たないでください。「被害に遭い、警察に通報済み。番号は追って連絡する」で構いません。これで期限の問題を回避できます。
- 3
数日以内自分がどの保険に入っているかを確認する
旅行保険、カード付帯、家財保険、携帯の保険。複数が該当することがあり、条件のよいものを選べます。
- 4
請求の前に免責額と補償上限を確認する
免責額のほうが被害額より大きければ、請求しても支払いはゼロです。手間に見合うかを先に判断してください。
- 5
書類が揃ったら証明を添えて正式に請求する
受理番号、被害品リスト、購入証明。足りないものがあっても、まず出して指示を仰ぐほうが早いことがあります。
要点
- ほぼ必須
- 警察の受理番号(crime reference number)
- よくある期限
- 警察へ24時間以内・保険会社へ数日以内(契約による)
- 確認する保険
- 旅行保険・カード付帯・家財保険・携帯の保険
- 免責額
- これを下回る被害は請求しても支払いゼロ
- 現金
- 対象外か、上限が非常に低いのが一般的
- 断られたら
- 金融オンブズマンに無料で申し立てできます
保険の請求で断られる理由は、多くの場合「補償されない被害だったから」ではありません。手続きの順番を外したからです。
最も多いのが、警察への届出が遅れたというもの。多くの保険契約が「盗難を知ってから24時間以内に警察へ届け出ること」を条件にしています。これは補償内容とは別の、請求が成立するための前提条件です。
次に多いのが、保険会社への連絡が遅れたというもの。「警察の受理番号が出てから連絡しよう」と考えて待っているうちに、連絡期限を過ぎてしまう。
どちらも、知っていれば10分で回避できるものです。この記事は、その順番の話が中心になります。
なお、詐欺による金銭の被害は保険ではなく銀行の返金制度が主戦場です。そちらは詐欺に遭ったらを参照してください。
目次
1. 順番を外さない
期限は補償内容より先に効く
正しい順番
- 警察に届け出る(当日中。多くの契約が24時間以内を要求)
- 保険会社に第一報(受理番号を待たない)
- 受理番号を受け取る
- 書類を揃えて正式に請求
「受理番号を待つ」がなぜ危ないか
オンラインで警察に通報した場合、crime reference number はその場では出ないことがあります。正式に受理された段階で発行されるまで、目安で24時間かかります。
この間に保険会社への連絡期限が来てしまうと、番号を持っていても請求できません。
だから第一報は、番号なしで入れます。伝える内容はこれで足ります。
「◯月◯日にロンドンで盗難に遭いました。警察には通報済みで、受理番号は追って連絡します。請求の手続きを開始したいので、必要な書類を教えてください」
これで期限を止められます。
契約書のどこを見るか
保険証券や約款の中で、確認すべきは次の3点です。
| 項目 | 英語での表記 | なぜ見るか |
|---|---|---|
| 免責額 | excess | これ未満の被害は支払われない |
| 補償上限 | limit / sum insured | 品目ごとに上限があることが多い |
| 通知期限 | notification period | 何日以内に連絡すべきか |
品目ごとの上限(single item limit) に注意してください。総額の上限とは別に、「1点あたり£300まで」といった制限があることが多く、高価な機材はここで頭打ちになります。
注意
「置き忘れ」は補償されないことがあります
多くの保険が、盗難(theft) は補償する一方で、置き忘れ(unattended / left behind) を除外しています。
「カフェの椅子に掛けたバッグを盗まれた」は、契約によっては「目を離した(unattended)」と判断され、支払われないことがあります。
ここで事実と違う説明をするのは避けてください。保険金詐欺は犯罪であり、発覚すれば契約解除だけでは済みません。事実を正確に伝えたうえで、補償の対象かどうかは保険会社に判断させるのが正しい進め方です。
2. どの保険が使えるかを洗い出す
入っていることに気づいていない保険がある
請求先は1つとは限りません。複数の保険が同じ被害をカバーしていることがよくあります。
旅行者の場合
- 海外旅行保険(出発前に加入したもの)
- クレジットカード付帯保険 — そのカードで旅行代金を払っていれば対象になることがあります(利用付帯)。持っているだけで対象になるもの(自動付帯)もあります
- スマートフォンの保険
在住者の場合
- 家財保険(contents insurance) — 自宅外での携行品を対象にする特約(personal possessions)が付いていることがあります
- 銀行の口座パッケージ — 月額のある口座に、携行品や携帯電話の保険が含まれていることがあります。入っていることを忘れている人が非常に多い部分です
- 携帯電話の契約に付帯する保険
二重取りはできません
複数の保険が該当しても、同じ損害を重複して受け取ることはできません。ただし、どれで請求するかは選べるので、免責額が低く、上限が高いものを選ぶのが合理的です。
カード付帯保険の落とし穴
- 利用付帯:その旅行の代金をそのカードで払っていることが条件
- 補償期間:出国から90日間など、期間制限があるのが一般的
- 在住者は対象外のことが多い(「旅行」の保険なので)
長期滞在者が「日本のクレジットカードの保険があるから大丈夫」と考えていて、実際には対象外だった、というのはよくある誤解です。渡航日から何日目までかを確認してください。
実務メモ
- 家財保険の証券で「personal possessions」「away from home」の記載を探す
- 銀行の口座パッケージは、月額を払っているなら特典一覧を必ず確認する
- 会社の福利厚生に出張保険が含まれていることもある
3. 証明を集める
購入証明は、たいていメールの中にある
請求で求められるのは、おおむね次の4種類です。
| 書類 | 入手先 |
|---|---|
| 警察の受理番号 | 警察(届出の手順) |
| 被害品のリストと金額 | 自分で作成 |
| 購入証明 | メールの注文履歴、カード明細 |
| 事故状況の説明 | 自分で作成 |
購入証明の探し方
レシートを取ってある人はまれです。メールの受信箱を検索するのが最も早い方法になります。
- 「注文」「ご注文」「領収書」「receipt」「order confirmation」で検索
- Amazon・楽天などは購入履歴の画面をそのまま印刷できる
- カードの利用明細でも、購入の事実は示せます
購入証明がまったくない場合でも、請求できないわけではありません。保険会社に相談してください。写真や、同型品の販売ページで代替できることがあります。
被害品リストの書き方
金額の大きい順に、具体的に書きます。
✕「スマートフォン 1台」 ○「Apple iPhone 15 Pro 256GB ブルーチタニウム、2025年3月購入、購入価格 £999」
写真を撮っておく
被害に遭った場所、壊された鍵やバッグ、切られたストラップなど、状況を示すものは撮っておいてください。あとから撮れません。
現金は期待しない
現金の盗難は、対象外か、上限が非常に低い(数万円相当)のが一般的です。ここは諦めが必要な部分です。
実務メモ
- IMEI 番号があるとスマートフォンの特定が容易。箱や購入時のメールに記載がある
- 翻訳が必要な書類は、保険会社に日本語で出してよいか先に確認する
- やり取りはメールで残す。電話で済ませると、言った言わないになる
4. 免責額を先に計算する
請求しないほうが得な場合がある
免責額(excess) は、支払われる保険金から差し引かれる自己負担分です。
被害額 £150、免責額 £100 なら、支払われるのは £50。被害額が £80 なら、支払いはゼロです。
請求しないほうがよい場合
- 被害額が免責額を下回る、または僅かに上回る程度
- 家財保険を使うと、翌年の保険料が上がる(no claims discount を失う)
- 手続きにかかる時間と労力が、戻る金額に見合わない
とくに家財保険は、小さな請求を1回するより、等級を維持したほうが長期的に得なことがあります。少額の被害では、請求前に一度計算してください。
品目ごとの上限にも注意
総額の補償上限とは別に、1点あたりの上限が設定されているのが普通です。
| 例 | 内容 |
|---|---|
| 総額上限 £2,000 | 全体で受け取れる最大 |
| 1点あたり £300 | ノートPCが £1,200 でも £300 まで |
| 現金 £100 | 現金は別枠で低め |
高価な機材(カメラ、楽器、PC)は、事前に申告して特約をつけていないと上限に引っかかります。渡英前に加入する際、この点を確認しておくと後が違います。
ヒント
クレジットカードの Section 75 も選択肢
盗難ではなく「買った商品が届かない」「業者が倒産した」という被害なら、保険ではなく Section 75 が使えます。
クレジットカードで £100 を超える買い物をした場合、カード会社が販売業者と連帯して責任を負う、という英国の法律です。免責額の概念がなく、カード会社に直接請求できます。
デビットカードは対象外ですが、チャージバックを申請できることがあります。
5. 断られたときにやること
最初の回答が最終結論ではありません
請求が拒否されても、そこで終わりではありません。
まず理由を書面でもらう
なぜ支払われないのかを、条項を示して説明するよう求めてください。口頭ではなく書面(メールで可)で受け取ります。
よくある拒否理由と、反論の余地:
| 拒否理由 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 「届出が遅い」 | 実際の届出日時。24時間の起算点は「気づいたとき」のことが多い |
| 「置き忘れである」 | 本当に unattended か。身につけていた物なら該当しないことがある |
| 「証明が不十分」 | 代替の証明を提示できないか |
| 「補償対象外の品目」 | 約款の該当条項を確認。解釈に幅があることがある |
正式な苦情(complaint)を出す
保険会社には苦情処理の手続きがあります。「complaint として扱ってください」と明示的に伝えてください。問い合わせと苦情では、社内での扱いが違います。
金融オンブズマンへ
苦情への最終回答(final response)から6ヶ月以内、または保険会社が8週間以内に回答しない場合、Financial Ombudsman Service に申し立てられます。
- 費用は無料
- 保険会社の判断が覆ることは実際にあります
- 日本語での対応は期待できないので、必要なら支援を探してください
英国の保険会社を相手にしている場合の話です。日本の保険会社に加入している場合は、日本の金融ADR(そんぽADRセンターなど)が窓口になります。
諦めるラインを決めておく
とはいえ、戻る金額と費やす時間の釣り合いは意識してください。£100 の被害に何十時間もかけるのは合理的ではありません。金額が大きい場合にこそ、オンブズマンまで進む価値があります。
よくある質問
参考・公式情報
- Metropolitan Police - Report a crime
- Metropolitan Police - Report lost or found property
- Transport for London - Lost property
- Stop Scams UK - STOP, HANG UP, CALL 159
- Report Fraud - UK's home for reporting cyber crime & fraud
- City of London Police - Report Fraud launches
- FCA - Fraudulent payments(返金ルール)
- 外務省 - 海外安全ホームページ
- 在英国日本国大使館 - 旅券(パスポート)
- 在英国日本国大使館 - 緊急連絡先
料金・時刻・制度は変更されます。本記事は2026年8月時点の情報です。渡航前に各公式サイトで最新情報をご確認ください。
本記事は手続きの流れを説明する情報提供であり、法的な助言ではありません。 警察・大使館・保険会社の運用や手数料は改定されることがあります (領事手数料は 毎年4月1日 に改定されます)。実際に手続きをする前に、各機関の公式ページで最新の 必要書類と金額をご確認ください。事件性のある被害や、身の安全に関わる 状況では、まず警察に相談してください。