BBC Drama · 2010–2017
SHERLOCK(シャーロック)のロケ地巡り
Sherlock — ロンドン市内で完結・半日
BBC版『SHERLOCK』のロンドンは、観光ガイドに載る顔とは少しずれたところに広がっています。ベーカー街ではなくユーストンの裏通り、大英博物館ではなく創建1123年の病院、そして「家の形をしているのに家ではない建物」。ドラマの美術チームが選んだのは、どれも実在の理由を持った場所ばかりです。
しかもそのほとんどが地下鉄で回れる範囲に収まっています。ここでは主要なロケ地を、なぜそこが選ばれたのかという背景と一緒に紹介します。
セント・バーソロミュー病院は現役の総合病院です。撮影ゆかりの場所ではありますが、患者と職員が日常的に使う医療施設なので、写真を撮る際は入口や通路をふさがないよう配慮してください。
掲載スポット
- 1.ノース・ガワー・ストリート 187番地
221Bベーカー街の外観 / シリーズ全編
- 2.セント・バーソロミュー病院(セント・バーツ)
「ライヘンバッハ・フォール」の飛び降り / モリー・フーパーの職場
- 3.レンスター・ガーデンズの「偽の家」
シリーズ3「最後の誓い」
- 4.ザ・ラングハム
シリーズ2「ベルグレービアの醜聞」ほか
- 5.サウスバンク・アンダークロフト(スケートパーク)
シリーズ1「死を呼ぶ暗号」の落書き
- 6.ベーカー街と シャーロック・ホームズ博物館
ドラマのロケ地ではないが、原作の聖地
221Bベーカー街の外観 / シリーズ全編
1. ノース・ガワー・ストリート 187番地
187 North Gower Street
ドラマの221Bベーカー街は、ベーカー街では撮影されていません。実際に使われたのは、ユーストン駅の西側にあるノース・ガワー・ストリートの187番地です。
理由は単純で、本物のベーカー街は交通量が多いうえに観光客が絶えず、長時間の路上撮影に耐えないから。一方このノース・ガワー・ストリートは、19世紀のテラスハウスが連なる見た目でありながら、比較的静かで通行を止めやすい。制作陣が街並みの「ベーカー街らしさ」だけを抜き出して移植した、という格好です。
撮影のために通りに加えられた変更は、驚くほど小さなものでした。187番地の玄関扉を、同じような黒い扉に「221b」の番号を付けたものへ丸ごと交換しただけ。撮影が終われば元の扉に戻されるため、普段この番地を訪ねても221bの表示はありません。
真下にあるサンドイッチ店 Speedy's Sandwich Bar & Café は、劇中でもそのままの名前と外観で登場します。シリーズ2では店内でも撮影が行われました。ここは今も普通に営業している実在の店で、客として入って食事ができます。ただし上の階は本物の集合住宅なので、「221Bの部屋」を見学することはできません。
- エリア
- ブルームズベリー / ユーストン
- 最寄り駅
- Euston Square 駅、Warren Street 駅(いずれも徒歩数分)
- 見学の可否
- 通りは公道なので自由に歩けます。Speedy's は営業中のカフェで、客として利用可能。建物の上階は私有の住居で立ち入れません。
- ひとこと
- 住人が実際に暮らす通りです。玄関先での長時間の撮影や、窓へのカメラ向けは控えてください。
「ライヘンバッハ・フォール」の飛び降り / モリー・フーパーの職場
2. セント・バーソロミュー病院(セント・バーツ)
St Bartholomew's Hospital
シリーズ2最終話、シャーロックが屋上から身を投げるあの病院です。ファンにとっては聖地であり、実際に事件後しばらく、壁には「I believe in Sherlock Holmes」と書かれた付箋やメッセージが貼り続けられていました。
この病院が選ばれたのは偶然ではありません。1123年創建、イギリスで現存する最古級の病院であり、現在の場所で900年間ずっと医療を続けてきた稀有な施設です。ジェームズ・ギブスが18世紀に設計した中庭の建物群は、そのまま19世紀のロンドンとしても20世紀としても撮れる強度を持っています。
そして何より、原作との符合があります。コナン・ドイルの『緋色の研究』で、ホームズとワトスンが初めて引き合わされるのが、まさにこのセント・バーツの化学実験室でした。ドラマ第1話でも二人はここで出会います。飛び降りの舞台にこの病院を選んだのは、二人の物語が始まった場所で一度終わらせる、という筋の通し方だったわけです。
敷地内には セント・バーソロミュー病院博物館 があり、900年分の医療史の展示と、ホガースが手がけた大階段の壁画を見ることができます。
- エリア
- シティ・オブ・ロンドン(ウェスト・スミスフィールド)
- 最寄り駅
- St Paul's 駅、Barbican 駅、Farringdon 駅
- 見学の可否
- 敷地と中庭は通り抜け可能。併設の病院博物館は入場無料ですが、開館日が週数日に限られるため事前に公式サイトで確認を。
- ひとこと
- 隣接するスミスフィールド市場は800年以上続くロンドンの食肉市場。早朝以外は静かですが、建物自体が一見の価値ありです。
シリーズ3「最後の誓い」
3. レンスター・ガーデンズの「偽の家」
23–24 Leinster Gardens
シャーロックがメアリーと対峙する、あの家です。ドラマの小道具ではなく、150年以上前から実在するロンドンの名物建築で、正面の壁しかありません。
事情は地下鉄の歴史に直結しています。1860年代、世界初の地下鉄であるメトロポリタン線を延伸する工事が、このテラスハウスの列を真っ二つに切り裂きました。当時の地下鉄は蒸気機関車で走っていたため、煙と蒸気を逃がす開削区間がどうしても必要だったのです。
ところが2軒分を取り壊すと、優雅なジョージ王朝様式の街並みに歯抜けができてしまう。そこで1868年、**壁だけの「家」**が建てられました。約1.5メートルの厚さしかない張りぼてで、背後には線路がむき出しで走っています。景観を保つと同時に、蒸気を吐く汽車を通行人の目から隠す衝立の役割も果たしていました。
一度知ってしまうと現地では簡単に見分けられます。23番地と24番地だけ、窓がすべて灰色に塗りつぶされていて、玄関に郵便受けも呼び鈴もありません。手前の通りに立って左右の家と見比べると、その不自然さがはっきり分かります。
- エリア
- ベイズウォーター
- 最寄り駅
- Bayswater 駅、Queensway 駅
- 見学の可否
- 公道から外観を眺めるだけの場所です。中に入ることはできません(そもそも中がありません)。
- ひとこと
- 裏側は Porchester Terrace 側から見られます。線路の上に壁が立っているだけ、という構造が確認できます。
シリーズ2「ベルグレービアの醜聞」ほか
4. ザ・ラングハム
The Langham
リージェント・ストリートの北端に立つ、1865年開業のグランドホテル。ドラマでは高級ホテルの場面で登場します。
このホテルがシャーロックと結びつくのは、実は撮影よりもずっと前からです。1889年8月、ここで開かれた出版社の晩餐会に、当時まだ無名に近かったコナン・ドイルと、すでに評判を得ていたオスカー・ワイルドが同席しました。この席でドイルが受けた執筆依頼から生まれたのが、ホームズ第2作の『四つの署名』です。ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』も同じ晩餐会がきっかけでした。
さらにドイルは、そのラングハム自体を作品の舞台に繰り返し使っています。『ボヘミアの醜聞』でボヘミア王が滞在するのも、『四つの署名』でモースタン大尉が失踪前に泊まるのも、このホテルです。原作にもドラマにも登場する数少ない実在の建物ということになります。
- エリア
- メリルボーン / リージェント・ストリート北端
- 最寄り駅
- Oxford Circus 駅
- 見学の可否
- 営業中の高級ホテルです。外観は自由に見られます。中を見たい場合はアフタヌーンティーやバーの利用が現実的で、いずれも要予約・ドレスコードあり。
- ひとこと
- 向かいはBBCの本拠地であるブロードキャスティング・ハウス。BBC制作のドラマがこのホテルを使った理由の一端が分かります。
シリーズ1「死を呼ぶ暗号」の落書き
5. サウスバンク・アンダークロフト(スケートパーク)
Southbank Undercroft
シャーロックとジョンが謎の記号を追う場面で登場する、コンクリートむき出しのスケートスポット。ハンガーフォード橋とウォータールー橋のあいだ、クイーンズ・ウォークに面したサウスバンク・センターの床下です。
ここは1970年代初頭から、誰かに与えられたわけでもなくスケーターが自然に住み着いて生まれた場所で、世界最古級のスケートスポットとして知られています。壁のグラフィティは常に描き替えられるため、訪れるたびに見え方が変わります。
2013年、この区画を商業施設に転用する再開発案が持ち上がった際、スケーターらが「Long Live Southbank」を結成して大規模な反対運動を展開しました。15万筆近い署名が集まり、2014年に開発計画は撤回。文化的価値のある空間として保存が決まっています。ドラマが撮影された当時、この場所はまさに存続をかけて争われている最中でした。
- エリア
- サウスバンク
- 最寄り駅
- Waterloo 駅、Embankment 駅
- 見学の可否
- 屋外の公共空間で、24時間自由に見学できます。入場無料。
- ひとこと
- 滑っている人の進路に立たないこと。撮影は歓迎されますが、レール沿いの動線は空けておくのがマナーです。
ドラマのロケ地ではないが、原作の聖地
6. ベーカー街と シャーロック・ホームズ博物館
Baker Street & The Sherlock Holmes Museum
ドラマの撮影には使われていませんが、巡礼の締めくくりとして触れておく価値があります。
まず面白いのは、コナン・ドイルが「221B」と書いた時点で、そんな番地は存在しなかったということです。当時のベーカー街は番号が100番台までしかなく、221という数字は実在しない安全な架空の番地として選ばれました。ベーカー街が北へ延長されて200番台が生まれたのは1930年代のことです。
すると今度は「221B宛のファンレター」が実在の建物に届き始めます。その番地を含む区画にあったアビー・ナショナル(住宅金融組合)は、世界中から届くホームズ宛の手紙に返信するため、専任の秘書を雇っていました。
現在のシャーロック・ホームズ博物館は、実際には239番地に建っていますが、特例として「221B」の表示を掲げることが認められています。館内はヴィクトリア朝の下宿として再現されており、行列ができることも珍しくありません。
ベーカー街駅の構内も見どころです。ホームの壁一面に、ホームズの横顔のシルエットをあしらったタイルが貼られています。駅の外にはホームズの銅像も立っています。
- エリア
- メリルボーン
- 最寄り駅
- Baker Street 駅
- 見学の可否
- 博物館は有料・年中無休(公式サイト参照)。駅構内のタイルと屋外の銅像は無料で見られます。
- ひとこと
- 駅そのものが1863年開業の世界最古の地下鉄駅のひとつ。メトロポリタン線のホームは開業当時の姿を色濃く残しています。
ほかの作品のロケ地
- ブリジャートン家のロケ地 — グリニッジ + 市内 / 1日
- ダウントン・アビーのロケ地 — ロンドン発の日帰り + 市内
- ハリー・ポッターのロケ地 — 市内 + スタジオツアー
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