パブの作法|カウンターで注文する、席で待たない

    How to Use a British Pub

    イギリスのパブでは、席に着いても誰も注文を取りに来ません。カウンターで頼んで、その場で支払う。この一点を知らないだけで、初めての一杯にたどり着けずに終わります。入店から会計までを順に解説します。

    2026年8月時点の情報

    要点

    注文
    カウンター(bar)で頼みます。席で待っていても誰も来ません
    支払い
    注文したその場で先払い。飲み終わってからではありません
    早い者勝ち。案内はされないので、自分で確保します
    チップ
    カウンター注文なら不要。これが原則です
    食事
    多くの店でキッチンは15時頃に一度閉まり、18時頃に再開します
    ラストオーダー
    閉店の20〜30分前。ベルが鳴ったら、それが最後の合図です

    イギリスのパブで、日本人が最初に必ず戸惑う場面があります。

    席に着いたのに、誰も来ない。

    5分待っても、10分待っても、店員が注文を取りに来ません。周りを見ると、みんな普通に飲んでいる。自分だけ何も出てこない。やがて「無視されているのだろうか」と不安になってきます。

    無視されていません。イギリスのパブでは、客がカウンターまで行って注文し、その場で支払うのが決まりです。誰も注文を取りに来ないのは、そういう仕組みだからです。

    これは語学力の問題ではなく、単に知っているかどうかの問題です。知っていれば初日から普通に飲めます。この記事は、入店から会計までを順に説明します。

    1. 入店から会計までの流れ

    この順番さえ覚えれば、あとは応用が効きます

    1. 入る。 「いらっしゃいませ」も案内もありません。黙って入って問題ありません
    2. 席を確保する。 座りたい席に上着や荷物を置いて場所を取ります(貴重品は置かないこと)
    3. カウンターへ行く。 ここが日本と最も違う点です
    4. 順番を待つ。 列がないことも多いですが、店員は来た順を見ています(後述)
    5. 注文する。 飲み物を頼みます
    6. その場で支払う。 注文ごとに支払うのが原則です
    7. 自分で席まで運ぶ。 グラスは自分で持っていきます
    8. おかわりは、またカウンターへ。 何度でもこの繰り返しです
    9. 帰るときは、そのまま出る。 会計は済んでいるので、伝票はありません

    「そのまま出る」が落ち着かない

    支払いが済んでいるので、飲み終わったら黙って店を出て構いません。日本の感覚だと落ち着きませんが、これで正しい。

    グラスをカウンターに戻す人もいますが、義務ではありません。テーブルに置いたままで問題ありません。店員が回収します。

    実務メモ

    • 席取りに上着や傘を置くのは普通の習慣。ただし財布・スマホ・パスポートは絶対に置かない
    • 混雑時は相席になることもある。空いている椅子を指して「Is this taken?」と聞けば足りる
    • グラスを返す文化の店もあるが、返さなくても失礼にはあたらない

    注意

    席で待っていても、誰も来ません

    これがパブで最も多い失敗です。テーブルサービスがある店もありますが、例外的です。原則は「カウンターで注文して先払い」。席に着いて5分待っても誰も来なかったら、それは忘れられているのではなく、あなたがカウンターに来るのを待っている状態です。

    2. カウンターでの振る舞い

    列がないのに順番がある、という不思議な空間

    パブのカウンターには、きちんとした列がないことがほとんどです。人が横に広がって立っています。

    それでも順番は存在します。店員は誰が先に来たかを見ています。これはイギリスの見えないルールのひとつで、割り込むと露骨に嫌がられます。

    どう待つか

    • カウンターの前に立ち、店員と目を合わせられる位置を確保します
    • 手を挙げたり、大声で呼んだりしない。最もやってはいけない行為です
    • 財布やカードを手に持っていると「注文の準備ができている」という合図になります
    • 店員が「Who's next?」と聞いたら、自分より先に来た人がいれば譲ります

    譲るという文化

    自分の番だと思っても、先に来ていた人がいれば "They were before me"(この人が先です)と譲るのが良い作法とされています。イギリス人はこれを実際にやります。

    呼びかけ方

    店員に話しかけるときは、目が合った時点で注文を始めて構いません。頭に "Can I get...""Could I have..." を付ければ十分丁寧です。

    実務メモ

    • 手を振る、指を鳴らす、大声で呼ぶ——いずれも強い不快感を与える行為。じっと待つのが正解
    • 混んでいる時間帯は、1人が代表してまとめて注文するほうが早い
    • カウンターに置かれたコースターや紙は、他の客の場所取りのことがある

    3. 飲み物の頼み方

    ビールの単位

    イギリスのビールは パイント(pint、約568ml) が標準です。日本の中ジョッキより多め。

    • A pint of ~ — 通常サイズ
    • A half of ~(ハーフパイント、約284ml) — 半分。少なめに飲みたいときに

    「軽く1杯」のつもりでパイントを2杯飲むと、想像よりかなりの量になります。

    銘柄をどう選ぶか

    カウンターには ハンドポンプ(手動のレバー)タップ(金属の注ぎ口) が並んでいます。

    • エール(ale / bitter) — 常温に近い温度で提供される伝統的なビール。ハンドポンプで注がれます
    • ラガー(lager) — 冷えたビール。日本のビールに近い
    • スタウト(stout) — ギネスなど黒いビール
    • サイダー(cider) — りんごの発泡酒。イギリスでは「シードル」ではなくサイダーです

    銘柄が分からない場合、注ぎ口のところに名前が書いてあるので、指差して「This one, please」で通じます。

    エールが「ぬるい」問題

    伝統的なエールは摂氏12度前後で提供されます。冷えていないので「ぬるい」と感じますが、これは不良品ではなく、その温度で香りが立つように作られているためです。

    冷たいものが飲みたければラガーを頼んでください。

    試飲できます

    多くのパブで、エールは少量を試飲させてもらえます。「Could I try the ~?」と聞けば、小さなグラスで味見をさせてくれます。無料です。遠慮する必要はありません。

    酒を飲まない場合

    パブは酒を飲まない人も普通に来る場所です。ソフトドリンク、ノンアルコールビール、紅茶やコーヒーを出す店もあります。酒を頼まないことが失礼にあたることはありません

    実務メモ

    • 「A pint of lager, please」だけでも通じる。銘柄にこだわりがなければこれで足りる
    • ライムを入れたラガー(lager top など)を頼む人もいる。地域と店による
    • 水は無料でもらえる。「Could I have some tap water?」と頼む

    ヒント

    エールは味見させてもらえます

    ハンドポンプで注ぐエールは、店員に頼めば少量を試飲させてもらえるのが一般的です。銘柄が読めない、味が想像できないという場合は遠慮なく頼んでください。断られることはまずありません。

    4. ラウンド制という習慣

    知らないと、気まずいことになる

    複数人でパブに行くと、ラウンド(round) という習慣に出会います。

    1人が全員分をまとめて買い、次は別の人が全員分を買う。これを人数分繰り返す、という飲み方です。

    なぜこうなるか

    カウンターまで行って注文する仕組みなので、全員が毎回カウンターに並ぶと効率が悪いからです。1人がまとめて買えば済みます。

    参加するときの注意

    • 自分の番が来たら必ず買う。買わずに帰るのは、かなり失礼にあたります
    • 人数が多いと大変なことになる。6人いれば6杯(=6ラウンド)飲むことになりかねません
    • 途中で抜けたい場合や、飲む量を抑えたい場合は、最初に伝えておくのが安全です

    断り方

    無理に付き合う必要はありません。最初に

    • "I'll get my own, thanks"(自分の分は自分で買います)
    • "I'll sit this round out"(このラウンドは抜けます)

    と言えば、それで通じます。運転する、体調が悪い、量を飲めない——いずれも普通に受け入れられる理由です。

    自分の番で頼むもの

    全員に「What are you having?」と聞いて回ります。ソフトドリンクを頼む人がいても構いません。

    注意

    ラウンドに入ったら、自分の番で必ず買う

    他の人におごってもらったまま、自分の番の前に帰るのは強い顰蹙を買います。人数が多いときや、量を飲めないときは、最初に「自分の分は自分で買う」と宣言しておくのが最も安全です。宣言してさえいれば、何の問題もありません。

    5. 食事をする場合

    パブは食事もできます。ただし注文方法が店によって分かれます

    2つの方式

    • カウンターで注文する方式 — 飲み物と同じ。テーブル番号を伝えて、料理を席まで運んでもらいます
    • テーブルサービスの方式 — 食事に力を入れた店(gastropub)に多い

    どちらか分からない場合、テーブルにメニューと番号札が置いてあれば前者、メニューだけなら店員が来るのを待つ、という見分け方がだいたい当たります。判断がつかなければカウンターで聞いてください。

    テーブル番号

    カウンターで料理を頼むとき、「どのテーブルですか」と聞かれます。席に番号が振ってあるので、先に確認しておいてください。

    番号を確認せずにカウンターに行くと、一度席まで戻ることになります。

    キッチンの時間

    多くのパブで、キッチンは15時頃に一度閉まり、18時頃に再開します。

    14時半に「遅い昼食を」と思って入ると、飲み物しか出てこないことがあります。中途半端な時間に食事をしたい場合は、入る前に "Are you still serving food?" と聞くのが確実です。

    日曜のロースト

    日曜には Sunday roast を出す店が多くあります。ローストした肉、ヨークシャープディング、野菜、グレービーソースの一皿で、イギリスの日曜の定番です。

    人気店は昼過ぎに売り切れます。日曜のローストが目当てなら、予約するか早めに行ってください。店の選び方はサンデーローストにまとめています。

    実務メモ

    • テーブル番号は席に着いた時点で確認しておく。カウンターで必ず聞かれる
    • アレルギーがある場合は注文時に伝える。イギリスの飲食店はアレルギー表示の義務があり、対応に慣れている
    • Sunday roast は日曜の昼から夕方のみ。売り切れ次第終了する店が多い

    6. チップと会計

    カウンターで注文した場合

    チップは不要です。これが原則です。

    パブでカウンター注文をして、チップを置いていく人はほとんどいません。置かなくても失礼にはあたりません。

    テーブルサービスを受けた場合

    食事をテーブルサービスで受けた場合は、レストランと同じ扱いになります。伝票に service charge(12.5%前後) が加算されていることがあり、その場合は追加不要です。

    加算されていない場合、満足したなら10〜12.5%程度を足す人もいますが、義務ではありません

    店員に一杯おごる

    古い習慣として、"And one for yourself"(あなたの分も1杯)と言ってチップ相当を渡す方法があります。今でも通じますが、必須ではありません。

    支払い方法

    ほぼすべてのパブがカード決済に対応しています。タッチ決済で問題ありません。現金しか使えない店は、今のロンドンではまず見かけません。

    一部の店では、カードを預けてタブ(tab)を開くこともできます。飲んだ分をまとめて最後に払う方式ですが、旅行者が使う必要はほぼありません。

    補足

    チップの原則

    カウンターで注文して自分で運んだなら、チップは不要です。テーブルまで料理を運んでもらった場合のみ、レストランに準じた扱いになります。詳しくは「チップと支払い」のガイドにまとめています。

    7. ラストオーダーと閉店

    ベルが鳴る

    閉店の20〜30分前に、ラストオーダー(last orders) の合図があります。ベルを鳴らす店、大声で告げる店、店員が回ってくる店など、方法はさまざまです。

    "Last orders at the bar!" と聞こえたら、それが最後の注文の機会です。

    飲み干す時間

    ラストオーダーのあと、drinking-up time(飲み干す時間)が20分程度あります。この間に飲み終えて店を出ます。

    急かされているように感じますが、これは法律上の営業時間の関係で、店員が意地悪をしているわけではありません。

    閉店時刻

    23時閉店の店が多いですが、店と曜日によって変わります。深夜まで営業する店もあります。

    日本の居酒屋のように「朝まで」という店はパブにはほぼありません。夜遅くまで飲みたい場合は、バーやクラブに移るのが一般的な流れです。

    実務メモ

    • ラストオーダーの時刻は店の入口に掲示されていることが多い
    • パブが閉まった後の選択肢はバーかクラブ。ソーホーやショーディッチに集中している

    8. 知っておくと戸惑わないこと

    子ども

    多くのパブは子ども連れで入れます。ただし条件があり、店の入口に掲示されています。

    • 食事を提供する店は子ども可のことが多い
    • 21時以降は子ども不可とする店が一般的
    • 「Over 18s only」と書かれた店には入れません

    イギリスのパブには犬がいます。店の看板に「Dog friendly」と書かれていることも多く、他の客の犬が足元で寝ていることは普通の光景です。

    立ち飲みと外飲み

    夏になると、客が店の外の歩道に立って飲んでいる光景が見られます。これは普通のことです。グラスを持って外に出て構いません(店によっては禁止されているので、掲示を確認してください)。

    トイレ

    パブのトイレは客用ですが、実質的に街の無料トイレとして機能しています。1杯頼めば当然使えます。

    静かな店とうるさい店

    同じパブでも時間帯で全く変わります。平日の昼は静かで、金曜の夜は会話が聞こえないほど騒がしくなります。落ち着いて話したい場合は、平日の早い時間を選んでください。

    一人で入っていいのか

    問題ありません。一人でカウンターで飲んでいる人は普通にいます。本を読んでいる人もいます。誰も気にしません。

    実務メモ

    • 「Over 18s only」の掲示がある店は、子ども連れでは入れない
    • パブの多くは17世紀〜19世紀の建物を使っている。天井が低く、頭をぶつけやすい店が実際にある

    よくある質問

    参考・公式情報

    料金・時刻・制度は変更されます。本記事は2026年8月時点の情報です。渡航前に各公式サイトで最新情報をご確認ください。

    ほかのガイド

    Must-Visit絶対行くべき超人気店予約が取れない、行列が絶えない。そう言われる店の多くは、仕組みを知っていれば入れます。予約が開放される日時、並ぶべき時間帯、人数による裏道まで店ごとに解説します。