第7章
自分の未払い額を計算する
Working out how much service charge you are owed
実際に審判所で認容された計算方法を、そのまま公開します。必要なのは、売上記録・シフト表・給与明細の3つだけです。
この章は、この記録のなかで最も実用的な部分です。
私が使い、そして審判所に認容された計算方法を、実際の数字とともに全部公開します。
必要なのは3種類の記録だけです。
- 日ごとの総売上と総サービスチャージ(POSシステムのZレポート)
- 日ごとの稼働スタッフ数(シフト表)
- 自分に実際に支払われたサービスチャージ(給与明細)
推測は使いません。すべて雇用主が通常業務のなかで作成した記録から出します。
ここが肝心な点です。相手が数字を争おうとすると、自分の会社の記録を否定することになります。
1. 考え方 — 何を比べるのか
「本来受け取るべきだった額」対「実際に受け取った額」
やることは、要するに引き算です。
本来受け取るべきだった額 − 実際に受け取った額 = 未払い額
問題は左側の「本来受け取るべきだった額」をどう出すかです。
配分ルールが書面化されていない職場では、参照できる基準がありません。そこで採る考え方がこれです。
文書化された配分ルールも、特定可能な算定方法も存在しない以上、 その日に働いた全員に等しく帰属するものとして扱うことが、 運用の実態と現に存在する証拠に最も整合する。
つまり、その日の総サービスチャージ ÷ その日に働いた人数を、1人あたりの取り分とします。
この方法が成り立つ前提を確認しておきます。
- サービスチャージがプールされて一括で扱われていたこと
- 個人ごとの管理・配分が行われていなかったこと
- 役割別・成績別の重み付けが文書化されていなかったこと
- 給与明細に単一の合計額しか記載されていなかったこと
逆に言えば、書面化された傾斜配分ルールが実在する職場では、この方法は使えません。その場合はそのルールに沿って計算することになります。
なお、キッチンスタッフを人数に含めるかは論点になり得ます。私はキッチンとフロアの両方を含めました。実際にその日の営業を回していた全員を対象とする方が、実態に即しているからです。
2. ステップ1 — 日ごとに、1人あたりの額を出す
総サービスチャージ ÷ その日の稼働人数
Zレポートから日ごとの総サービスチャージを、シフト表からその日の稼働人数を拾います。
実際の数字から、いくつか抜き出します。
| 曜日 | 総売上 | 総サービスチャージ | キッチン | フロア | 1人あたり |
|---|---|---|---|---|---|
| 木 | £1,243 | £138 | 2 | 5 | £19.70 |
| 土 | £3,475 | £381 | 2 | 6 | £47.60 |
| 火 | £718 | £73 | 2 | 4 | £12.20 |
| 金 | £3,069 | £335 | 4 | 5 | £37.20 |
| 土 | £4,289 | £475 | 3 | 5 | £59.40 |
| 月 | £1,302 | £144 | 2 | 2 | £36.00 |
| 金 | £3,454 | £374 | 2 | 4 | £62.30 |
計算はこれだけです。
£381 ÷ (2 + 6) = £47.60
これを対象月の全営業日について行います。
日によってかなり幅が出ることが分かります。£12から£62まで開きがありました。売上と人数の組み合わせで決まるので当然です。
1か月分すべての平均を取ります。
私のケースでは、1日あたり £35.28 となりました。
補足しておくと、この£35.28は「客が支払った12.5%のうち、その日働いていた1人あたりに帰属する額」です。 一方で、実際に支払われていたのは時給に上乗せされる1〜3ポンド程度でした。この差が、そのまま争点になります。
3. ステップ2 — 自分の実稼働日数を掛ける
平均ではなく、実際に働いた日数を使う
次に、対象月に自分が実際に働いた日数を数えます。シフト表から拾えます。
私の場合は18日でした。
£35.28 × 18日 = £635.04
これが、その月に私が受け取るべきだった額です。
ここで大事なのは、実稼働日数を使うことです。「週5日勤務だから月22日くらい」という概算ではいけません。
理由は2つ。
- 実際の日数の方が正確である
- シフト表という裏付け資料がある
概算を使うと、そこが攻撃対象になります。実数を使えば、争う余地がありません。
4. ステップ3 — 実際に支払われた額を引く
給与明細のサービスチャージ欄を見る
給与明細から、その月に実際に支払われたサービスチャージの額を確認します。
私の場合は £108.50 でした。
£635.04 − £108.50 = £526.54
これが、その月の未払い額です。
£635.04受け取るべきところ、£108.50しか支払われていなかった。
数字にすると、この差の大きさが分かります。受け取っていたのは、本来の額の17%程度ということになります。
給与明細を見るときの注意点をいくつか。
- サービスチャージが別項目として記載されているかを確認する。基本給に混ぜられている場合は、内訳の開示を求めることになります
- grossの数字を使うこと。手取りではありません(理由は後述)
- 明細を持っていない場合、雇用主には給与明細を交付する義務があります。過去分の再発行も請求できます
5. ステップ4 — 在職期間全体に広げる
日額に換算してから、総稼働日数を掛ける
ここまでで1か月分の未払い額が出ました。これを在職期間全体に広げます。
まず、1日あたりの未払い額に換算します。
£526.54 ÷ 18日 = £29.25
次に、在職期間中の総稼働日数を掛けます。私の場合は137日でした。
£29.25 × 137日 = £4,007.55
これが最終的な請求額であり、審判所が認容した金額です。
計算全体を一覧にすると次のようになります。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 1日あたりの本来の取り分 | £35.28 |
| 対象月の稼働日数 | 18日 |
| 対象月に受け取るべきだった額 | £635.04 |
| 対象月に実際に支払われた額 | £108.50 |
| 対象月の未払い額 | £526.54 |
| 1日あたりの未払い額 | £29.25 |
| 在職期間中の総稼働日数 | 137日 |
| 未払い額の累計 | £4,007.55 |
この方法の利点は、すべての段階で実際に働いた日数に基づいていることです。平均や推定を使っていません。
6. 1か月分のデータしかなくても計算できる
「代表月」が認められるための条件
ここは多くの人が引っかかるところだと思います。
在職期間全体のデータを揃えられる人は、まずいません。
私も同じでした。完全な記録を確保できたのは1か月分だけです。準備の途中で雇用が終わったためです。
それでも、この計算は通りました。理由は、その月が代表月(reference month)として成立する条件を満たしていたからです。
書面では、次のように説明しました。
- その月は完全な1か月であり、欠けている日がない
- 日次の売上レポートが全日分そろっている
- 出勤記録が全日分そろっている
- 給与明細があり、実際に支払われた額が確認できる
- 在職期間を通じて、サービスチャージの徴収・処理の方法に変更がなかった
最後の条件が重要です。運用が途中で変わっていた場合、1か月を全期間に広げる前提が崩れます。
つまり、こう主張しました。
この月は、記録が完全にそろい、かつ相互に整合している唯一の月である。 運用方法が期間を通じて変わっていない以上、実際に行った労働に対応する取り分を判断するうえで、入手可能な最良の証拠である。
完全なデータでなくても諦める必要はありません。 必要なのは、選んだ月についてその月の記録が完全であることと、運用が変わっていないことを示せることです。
7. grossで計算する理由
手取りではなく、控除前の額
計算はすべて gross(税・国民保険料の控除前) で行います。
これは未払い賃金の請求における審判所の実務です。実際、審判所からの指示にも「計算にはgrossの数字を使うこと」と明記されていました。
比較する2つの数字は、次のとおりです。
- 支払われるべきだったgrossのサービスチャージ
- 実際に支払われたgrossのサービスチャージ
判決額もgrossで出ます。
したがって、受け取った金額から税とNIを納める責任は自分にあります。実際、判決にもその旨が明記されました。
受け取った額をそのまま使えるわけではないので、この点は認識しておいてください。
8. 在職中に集めておくべき記録
辞めた後では手に入りにくくなる
これは、私が最も強く伝えたい部分です。
辞めた後では、必要な記録は格段に集めにくくなります。
在職中であれば、日常業務のなかで目にする書類が、後になって証拠になります。
優先度が高いもの:
- 日次の売上レポート(Zレポート) — 総売上と総サービスチャージが分かるもの。これが最重要
- シフト表 — 日ごとに誰が働いていたか。キッチンとフロアの両方
- 給与明細 — 全期間分。デジタルで保存する
- 自分の勤務記録 — 実際に働いた日を自分でも記録しておく
あると強いもの:
- サービスチャージの記載があるメニューやレシート — 何%徴収していたかの裏付け
- 配分方法について質問したときの返答 — メールやチャットで残す
- 雇用契約書 — ある場合。ない場合、「ない」こと自体が意味を持つ
- 同僚の証言 — ただし、相手にリスクが及ばないよう配慮する
記録の残し方について:
- 個人のメールアドレスや個人のクラウドにその都度保存する。会社の端末やアカウントにだけ置かない
- スクリーンショットは日時が分かる形で撮る
- 会話は、可能であればチャットやメールに移す
ひとつ注意を書いておきます。 記録を集める行為が、就業規則や契約上の守秘義務に触れる場合があります。自分に関係する自分のデータ(自分の給与明細、自分のシフト)を保存することは通常問題になりませんが、他人の個人情報を含む資料の扱いには注意が必要です。 迷う場合は、Acasや Citizens Advice に確認してください。
9. 計算テンプレート
自分の数字を入れる
自分のケースに当てはめる際の手順です。
ステップ1 — 対象月を1つ選ぶ 記録が完全にそろっている月を選ぶ。
ステップ2 — その月の各営業日について計算する
その日の1人あたり取り分 = その日の総サービスチャージ ÷ その日の稼働人数
ステップ3 — 月平均を出す
1日あたりの本来の取り分 = 各日の1人あたり取り分の合計 ÷ 営業日数
ステップ4 — その月に受け取るべきだった額
本来の額 = 1日あたりの本来の取り分 × その月の自分の稼働日数
ステップ5 — その月の未払い額
月の未払い額 = 本来の額 − 給与明細上の実支給額(gross)
ステップ6 — 日額に換算
1日あたりの未払い額 = 月の未払い額 ÷ その月の自分の稼働日数
ステップ7 — 在職期間全体へ
請求額 = 1日あたりの未払い額 × 在職期間中の総稼働日数
提出時には、この計算過程そのものを書面にします。数字だけを出すのではなく、各ステップで何をしたか、どの資料から来た数字かを説明してください。
私が提出したのも、まさにこの構成の書面でした。