オペラ座の怪人 のあらすじ
The Phantom Of The Opera ・ His Majesty's Theatre で上演中
顔を隠して生きるしかなかった男が、たった一人でいいから逃げない相手を探す話です。
- 上演時間
- 2時間30分(休憩20分込み)
- 劇場の推奨
- 10歳以上
- 劇場
- His Majesty's Theatre
目次
パリ・オペラ座には、姿を見せない住人がいます。楽屋には彼宛ての手紙が届き、五番ボックス席は常に空けておくよう命じられ、逆らった者には事故が起きる。劇場の人間は誰も彼を見たことがないのに、誰もが彼の存在を前提に仕事をしています。
その「怪人」が、合唱団の端にいた娘クリスティーヌを見つけます。彼女は亡き父が「音楽の天使を遣わす」と遺した言葉を信じていて、壁越しに聞こえる声をその天使だと思っている。彼女は、自分を教えているのが誰なのかをまだ知りません。
これは怪物の話ではありません。顔を隠して生きるしかなかった人間の話です。彼が求めているのは支配ではなく、仮面を外しても逃げない相手がたった一人でいいから欲しい、ということでした。アンドリュー・ロイド・ウェバーの旋律が甘美であるほど、その願いが叶わないことがはっきりしてくる——その落差が、この作品を40年近くロンドンに留めています。
原作はガストン・ルルーが1910年に発表した小説です。ミュージカル版は1986年にロンドンで開幕し、以来ほぼ同じ劇場で上演が続いています。以下、上演の順に筋を追います。結末は折りたたみの中です。
物語の前提となる時代
物語は1905年の競売から始まります
幕開けは、廃墟同然になったオペラ座で開かれている競売の場面です。車椅子の老人が、ある小道具を競り落とします。そして「ロット666、シャンデリア」が持ち上げられた瞬間、序曲が鳴り、劇場は1881年の姿に戻る——本編はこの老人の回想です。彼が誰なのかは、第一幕を見ればすぐに分かります。
シャンデリアは、開演前から舞台にあります
客席に入ると、舞台上に布を被せられた大きな塊が置かれています。それがシャンデリアです。序曲でこれが客席の頭上へ吊り上げられ、第一幕の幕切れで落ちてきます。第二幕ではありません。開演前に、自分の席から見てそれがどこにあるかを確かめておくと、あの瞬間の効果がまるで違います。
劇場の名前が2022年に変わりました
上演劇場は His Majesty's Theatre です。1986年の初演からずっと同じ建物ですが、2022年のチャールズ国王即位に伴って Her Majesty's Theatre から改称されました。古い記事やガイドブックでは Her Majesty's と書かれています。同じ劇場なので、当日に混乱しないでください。
主な登場人物
プログラムやキャストボードと突き合わせられるよう、英語表記を添えています。
- ファントム(怪人)主人公
The Phantom
オペラ座の地下に棲む音楽の天才。生まれつきの顔の異形ゆえに人前に出られず、仮面の下で愛されることを諦めきれずにいます。舞台版では彼の名前は最後まで明かされません。原作小説では「エリック」という名を持っています。
- クリスティーヌ見出された歌姫
Christine Daaé
合唱団の端役だった娘。姿の見えない「音楽の天使」に導かれて才能を開花させますが、その正体を知って恐怖と憐れみの間で揺れます。彼女が最後に取る行動が、この作品でいちばん語られる場面です。
- ラウル幼馴染の子爵
Raoul, Vicomte de Chagny
クリスティーヌを子どものころから知る青年貴族。まっすぐに彼女を守ろうとしますが、地下に何がいるのかを最後まで理解しきれません。冒頭の競売にいる老人は彼です。
- カルロッタ座付きのプリマドンナ
Carlotta Giudicelli
オペラ座の看板歌手。クリスティーヌの台頭に激しく反発し、怪人の標的にされます。彼女が舞台上で受ける仕打ちは、この作品では数少ない笑いどころでもあります。
- マダム・ジリーバレエ教師
Madame Giry
劇場の古株で、怪人について誰よりも知っている人物。何を知っていて何を黙っているのかが終盤で効いてきます。彼が何者で、どこから来たのかを語るのは彼女です。
- メグ・ジリーバレエ団の少女
Meg Giry
マダム・ジリーの娘で、クリスティーヌの友人。彼女が最後に舞台上で拾い上げるものが、この作品の幕切れになります。
1905年の競売 〜 1881年のパリ・オペラ座
第一幕のあらすじ
無名の合唱団員が一夜で主役になり、地下へ導かれ、仮面を剥ぎ取る。幕切れはシャンデリアが客席に落ちる場面です。
プロローグ — ロット666
1905年、荒れ果てたオペラ座で競売が開かれています。車椅子の老人ラウルが、猿の形をしたオルゴールを競り落としました。
続いて出品されたのが「ロット666、シャンデリア」です。競売人が、これはあの有名な事件に関わる品だと説明し、修復して電化したと告げて布を取り払う。その瞬間に序曲が鳴り響き、シャンデリアが客席の頭上へ昇っていきます。舞台は埃を払われ、1881年のオペラ座が現れます。
Overture
代役の一夜
『ハンニバル』の稽古中、劇場は新しい支配人へ引き継がれようとしています。プリマドンナのカルロッタが歌っている最中に背景の吊り物が落下し、彼女は「怪人の仕業だ」と怒って降板してしまいました。
代役に名乗り出たのは、合唱団のクリスティーヌです。彼女は「音楽の天使に教わっている」と言います。その夜の舞台は大成功でした。
Think of Me
幼馴染との再会
客席にいたパトロンの子爵ラウルが、クリスティーヌが子どものころの知り合いだと気づきます。楽屋を訪ねてきた彼に、彼女は亡き父が遣わしてくれた天使に導かれているのだと打ち明けました。ラウルはそれを子どもの空想として受け取り、食事に誘って部屋を出ます。
一人になった楽屋に、声が響きます。
Angel of MusicLittle Lotte
鏡の向こうへ
鏡の奥から現れた怪人に導かれ、クリスティーヌは劇場の地下へ降りていきます。蝋燭が水面から立ち上がる湖を小舟で渡り、彼の棲家に辿り着きました。
そこで彼は、夜の音楽に身を委ねるよう彼女に歌いかけます。この作品でいちばん有名な旋律が、口説きの場面ではなく「音楽そのものへの誘い」として置かれていることは、押さえておくと後半の見え方が変わります。
The Phantom of the OperaThe Music of the Night
仮面を外す
目を覚ましたクリスティーヌは、作曲に没頭する怪人の背後に近づき、その仮面を剥ぎ取ります。露わになった顔に彼女は悲鳴を上げ、彼は激昂して彼女を罵りました。
しかし我に返った彼は、それでも彼女を地上へ帰します。この一場面に、彼が抱えているものの全部が出ています。
Stranger Than You Dreamt It
劇場を支配する
怪人は支配人たちに手紙を送り、クリスティーヌを主役に据えるよう要求します。要求は無視され、カルロッタが主役のまま『イル・ムート』が上演されました。
その最中、カルロッタの声が突然、蛙の鳴き声に変わります。舞台が混乱するなか、怪人の秘密を喋ろうとしていた舞台係が首を吊られた姿で吊り下ろされました。
逃げ出したクリスティーヌとラウルは劇場の屋上で愛を誓います。その一部始終を、怪人が聞いていました。
NotesPrima DonnaAll I Ask of You
第一幕の幕切れ
裏切られたと知った怪人が、客席の頭上にあるシャンデリアを落とします。開演前から見えていたあの塊が、ここで落ちてきます。
All I Ask of You (Reprise)
半年後の仮面舞踏会から、地下の対決まで
第二幕のあらすじ
怪人が自作のオペラを劇場に強要し、その初演が罠として使われます。彼が何者だったのかも、この幕で明かされます。
仮面舞踏会
半年後。劇場は束の間の平穏を取り戻し、大階段で仮面舞踏会が開かれています。クリスティーヌとラウルは婚約していますが、それを隠したままです。
音楽が止み、階段の上に赤い死神の装いで怪人が現れます。彼は自作のオペラ『ドン・ファンの勝利』の楽譜を投げ渡し、これを上演せよと命じました。
Masquerade
彼が何者だったのか
問い詰められたマダム・ジリーが、ようやく口を開きます。かつて巡業の見世物小屋に、顔の異形ゆえに檻に入れられ、見物人に晒されていた少年がいた。同時に彼は建築と音楽と手品に並外れた才能を持っていた。少女だった彼女がその子を逃がし、この劇場の地下に匿った——それが怪人です。
Notes IITwisted Every Way
父の墓へ
混乱したクリスティーヌは、亡き父の墓を訪れます。もう一度だけ会いたい、と歌う場面です。
そこにも怪人が現れ、天使の声色で彼女を連れ去ろうとしました。駆けつけたラウルと対決になり、怪人は炎を投げつけて退きます。
Wishing You Were Somehow Here AgainWandering Child
罠としての初演
ラウルは、怪人の新作オペラの上演をそのまま彼を捕らえる罠にすることを提案します。劇場を警官で固め、クリスティーヌを囮にする。彼女は、自分が餌になることに苦しみながら承諾しました。
We Have All Been Blind
上演中の入れ替わり
『ドン・ファンの勝利』の初日。舞台袖で相手役の歌手が姿を消し、代わりに舞台へ現れたのは怪人自身でした。
歌が進むうち、クリスティーヌは相手が誰であるかに気づきます。それでも二人は最後まで歌い切る。そして客席が見つめる前で、彼女は彼の仮面を剥ぎ取りました。一幕では二人きりの部屋で起きたことが、ここでは満員の観客の前で起きます。
The Point of No Return
よくある誤解
ホラー作品だと思われている
恐怖を目的にした作品ではありません。人が死ぬ場面はありますが、中心にあるのは孤独と片想いです。序盤に驚かせる仕掛けがいくつかある程度で、後半はむしろ静かに進みます。
シャンデリアは第二幕で落ちると思われている
第一幕の幕切れです。開演前から舞台上に布を被せて置かれ、序曲で客席の頭上へ上がり、一幕の最後に落ちてきます。休憩後だと思って身構えていると、いちばん見たかった瞬間を油断して迎えることになります。
怪人には名前があると思われている
舞台版では最後まで明かされません。原作小説では「エリック」という名を持っていますが、ミュージカルの中で彼がそう呼ばれることはありません。名前を持たないこと自体が、彼の置かれた状況を表しています。
劇場名が違っていると思われている
His Majesty's Theatre と Her Majesty's Theatre は同じ建物です。2022年のチャールズ国王即位に伴って改称されました。1986年の初演からずっとこの劇場で上演されています。
『ラブ・ネバー・ダイ』が正式な続編だと思われている
同じロイド・ウェバーによる後日譚ですが、別作品で、こちらを観る前提にはなっていません。人物の設定にも食い違いがあり、続けて観ると混乱します。
観る前に知っておくこと
- 客席に入ったら、舞台上の布を被せられた塊がどこにあるかを見ておいてください。それがシャンデリアです。序曲で頭上へ上がり、第一幕の最後に落ちてきます。
- 冒頭は1905年、本編は1881年です。最初の数分だけ時代が違うので、白黒のような色調の場面から急に華やかになったら、そこが時間の切り替わりです。
- ほぼ全編が歌で進む sung-through の作品ですが、この演目は登場人物が少なく、舞台も劇場の中だけで完結します。関係が追いやすいので、sung-through としては筋を見失いにくい部類です。
- 怪人の仮面が外れる場面は、第一幕と第二幕に一度ずつあります。同じことが「二人きり」と「満員の観客の前」で起きるという対比が、この作品の骨格です。
- 劇場は His Majesty's Theatre(ヘイマーケット通り)。古い資料には Her Majesty's と書かれていますが同じ建物です。