Lobster Telephone
サルバドール・ダリ, 1938年
テート・モダン Materials and Objects (Room 1)

受話器の代わりに、ロブスターが載っています。それだけです。 そして、それだけのことが20世紀美術の教科書に載っています。
まず、じっくり形を見てください。 台座は1930年代の回転ダイヤル式電話。ごく普通の実用品です。その上に、白い石膏で作られたロブスターが、腹を上にして置かれている。ロブスターの尾が、ちょうど受話器を握る位置に来ています。
そして、気づいてください。 尾の部分は、生物学的には排泄器官がある側です。ダリはこれを、電話をかける人の口元に来るように配置しました。悪趣味な冗談ですが、意図的なものです。
なぜこれが芸術なのか。 シュルレアリスムの中心的な発想に、「まったく無関係な二つのものを、あり得ない場所で出会わせる」という手法があります。詩人ロートレアモンの「解剖台の上のミシンと蝙蝠傘の偶然の出会い」という一節が合言葉のように引用されました。理性が作った分類の枠を、強引に壊してみせる——そこに、無意識や夢のような感覚が立ち上がる、という考え方です。
ダリにとって、この二つは無関係ではありませんでした。
電話は、ダリにとって不吉な物でした。1938年、この作品が作られた年、ヨーロッパは戦争へ向かっていました。イギリス首相チェンバレンとヒトラーの交渉は電話を通じて世界に伝えられ、当時の新聞は電話にかじりつく政治家たちを繰り返し報じていた。電話は「悪い報せが来る装置」だったのです。
ロブスターは、ダリの偏愛の対象でした。彼は繰り返しロブスターを描き、食べ物と性、快楽と痛み、柔らかい中身と硬い殻という対比に取り憑かれていました。
つまりこの作品は、「不安の装置」と「欲望の生き物」を接続したものです。 受話器を取れば、耳と口に生々しい甲殻類が当たる。電話をかけるという日常の行為が、ぬるりとした不快さに変わる。
この作品には複数のバージョンがあり、 イギリスの詩人エドワード・ジェームズの注文で作られました。彼はダリの最大の支援者で、自宅にこの電話を実際に設置していたと伝えられます。冗談として作られ、本当に使われた。 そこまで含めて作品です。
テート・モダンでは Materials and Objects の展示室にあります。近づいて、その白さと質感を確かめてみてください。