The Souvenir
ジャン=オノレ・フラゴナール, 1776–1778
ウォレス・コレクション Study

『思い出』はフラゴナールが1776–1778年頃に描いた作品で、18世紀後半に流行した「感受性(sensibilité)」を反映しています。
作品にはルソーの小説『ジュリー、または新エロイーズ』のヒロイン、ジュリーが描かれています。彼女は恋人の頭文字を木の幹に刻み込み、その様子を傍らのスパニエル犬が見守ります。犬は忠誠と愛情の象徴であり、物語性を強めています。
技法的には、当時ヨーロッパで好まれた17世紀オランダ小画派(リトル・マスター)の緻密なスタイルを取り入れていますが、フラゴナールはそれに独自の演出を加えました。舞台照明のような光の扱い、繊細な線描、髪や木の葉を装飾的に流れるように描く筆致が特徴です。
この作品は、ロココ的な軽やかさから一歩進み、人間の感情を丁寧に描こうとしたフラゴナールの後期の試みを示しています。