Fox Hill, Upper Norwood
カミーユ・ピサロ, 1870年
ナショナル・ギャラリー Room 41

1870年、カミーユ・ピサロはフランス=プロイセン戦争を逃れてロンドンに滞在しました。本作はその翌年、南ロンドンのアッパー・ノーウッド(Fox Hill)を描いたもので、ロンドン時代の約12点の連作のひとつに数えられます。
画面には、雪解けの丘道を歩く二人の女性と一人の男性が描かれ、水気を含んだ陽光が雲間から差し込む冬の空気感が繊細に表現されています。ピサロ特有の柔らかな筆致は、雪解けの湿った路面や霞む光を自然に捉え、都会近郊の静かな生活の一場面を詩的に切り取っています。
また、この作品は小型であることから、現地(屋外)で直接制作された可能性が高いとされています。印象派画家たちが実践した「戸外制作(プレナール)」の典型例といえ、ピサロが自然光の効果を即興的に捉えようとした姿勢を如実に伝えています。
ピサロのロンドン時代の作品群は、後の印象派形成において重要な役割を果たしたと考えられており、本作はその実験的かつ親密な一枚といえるでしょう。