The Umbrellas
ピエール=オーギュスト・ルノワール, 1881-1886年頃
ナショナル・ギャラリー Room 41

一枚の絵の中で、画家が別人になっている絵です。 そのつもりで左右を見比べてください。
まず右側。 帽子の女性たち、子ども、羽根飾り。輪郭はふわふわと溶け、色は暖かく、筆はほどけたように軽い。典型的な印象派のルノワールです。
次に左側。 帽子箱を抱えた女性の顔、腕、ドレス。ここは輪郭がはっきりと引かれ、色は青灰色に抑えられ、絵具は硬く均されている。まるで別の画家が描き足したようです。
実際、そうでした。ルノワールはこの絵を1881年頃に描き始め、いったん中断します。その間にイタリアを旅してラファエロの古典絵画に衝撃を受け、印象派のぼやけた描き方に疑問を持ちはじめた。1885年頃に戻ってきて、左半分を描き直したのです。制作年が「1881-1886年頃」と幅を持つのはそのためで、この一枚には印象派を捨てる直前と直後のルノワールが同居しています。
それから、傘を見てください。 画面上部を、開いた黒と青の傘がびっしり埋めています。人の頭より傘のほうが多い。この傘の連なりが作る楕円のリズムが、絵に音楽的な律動を与えています。タイトルが人物ではなく「傘」なのは伊達ではありません。
そして、左手前の女性を見てください。 彼女だけが傘を持っていません。抱えているのは帽子箱——お針子か店員、つまり働いている女性です。周りの客たちが傘を差す中、雇われている側だけが濡れている。ルノワールがどこまで意識したかは分かりませんが、この一点で絵に階級のざらつきが入ります。
ルノワールが都市の群衆をこれだけの規模で描いたのは、これが最後です。以後、彼は裸婦と肖像へ向かい、二度とパリの街路には戻りませんでした。