Curtain, Jug and Dish of Fruit
ポール・セザンヌ, 1893-94年
ナショナル・ギャラリー Room 45

ポール・セザンヌ(1839–1906)の《カーテン、ジャグと果物皿》(1893–94年)は、彼の静物画研究の頂点のひとつとされる作品です。1886年に父の死によって故郷エクス=アン=プロヴァンスの屋敷ジャス・ド・ブファンを相続したセザンヌは、孤独なアトリエで同じモチーフを繰り返し描き、徹底した構成的探求を行いました。
この作品では、卓上に置かれたジャグと果物、白布、左側に垂れ下がる重厚なカーテンが描かれています。背景は青・緑・灰色の織りなす平面的な空間で、室内の状況をほとんど示しません。果物や布、器は緻密な筆致で描かれる一方で、随所に歪みや不安定さが導入されています。
例えば、緑の林檎はグラデーションによる短い筆触で強い存在感を得る一方、黒い輪郭が圧縮的に見せています。オレンジは単純化され、ジャグや布の量感と対照的にやや平板に映ります。果物皿は卓上に正しく収まらないほど高く積み上がり、ジャグも傾いて見えるなど、重力の論理をあえて揺るがすような構成がなされています。布の襞の上に危うく載った果物は今にも転がり落ちそうで、作品全体が緊張と均衡の間に張り詰めています。
こうした多視点性や形態の解体は、印象派の「一瞬の視覚体験」の追求から一歩進み、セザンヌが唱えた「感覚の秩序の論理(logic of organised sensations)」の具体化とも解釈されます。この探求は後のキュビスムに決定的な影響を与え、ピカソがセザンヌを「我々すべての父」と呼ぶ所以ともなりました。
同じ時期に、色調を青緑に寄せ、より柔らかなモデリングを施した別ヴァージョンも描かれており、本作と並んで1890年代の代表的な静物画と位置づけられています。