The Grounds of the Château Noir
ポール・セザンヌ, 1900–1904年頃
ナショナル・ギャラリー Room 44

シャトー・ノワールは、エクス=アン=プロヴァンスとル・トロネの間に位置する広大な敷地をもつ屋敷でした。1897年からセザンヌはこの建物の一室を借り、1899年には買い取ろうと試みましたが実現せず、1902年に近くのレ・ローヴのアトリエが完成するまで利用し続けました。その後も死の直前まで馬車で通い、この敷地を好んで描きました。
本作に描かれているのは、屋敷の北東にある岩の多い急斜面に生える木々です。斜めに傾いた地形は今にも岩が転げ落ちそうな不安定さを感じさせますが、セザンヌの静物画の食卓が物理法則に逆らうかのように、この岩も揺るぎなく配置されています。厚い樹木の群れが空をほとんど覆い隠し、わずかに上部に淡い青の空がのぞきます。ところどころに差す青の反射光が地面に現れ、セザンヌの「光は直接描けず、色彩によって表される」という考えを体現しています。
画面中央の小さなオレンジ色の斑点が焦点となり、周囲のオレンジや褐色と響き合います。冷たい緑や灰色の樹木と対比をなすものの、全体としては暗い灰、茶、濃緑が支配的です。ファセット状の重なり合う筆致によって彫刻的な質感が生まれ、この技法は後のピカソやブラックのキュビスムに引き継がれました。
高い地平線と閉ざされた視界、重苦しい色彩は、10年前の《シャンティイの並木道》の明るく均整のとれた構図とは対照的です。晩年のセザンヌは人の手が加わらない荒々しい自然に惹かれ、そこに自身の内面の暗い気分や、若き日の作品に潜んでいた激しさの反映を見出していたのかもしれません。