土曜3時にサッカーが見られない国。60年前のルールがまだ生きている理由
プレミアリーグCEOのリチャード・マスターズ氏が、土曜午後2時45分から5時15分までサッカー中継を禁じる「Article 48」の見直しについて、talkSPORTのインタビューで言及しました。ただし結論は18ヶ月先送り。1960年代に下位リーグを守るために作られたルールが、配信全盛の2026年にもほぼ手つかずで残っている構図を、筆者は「守っている」というより「決められないだけ」ではないかと見ています。
「変えるかどうかは18ヶ月後に」— マスターズ氏の煮え切らない答え
プレミアリーグには「Article 48」と呼ばれる規則があり、土曜午後2時45分から5時15分のあいだはイングランド国内でサッカーの生中継が一切できません。年間で約110試合がこの時間帯に組まれ、テレビでもストリーミングでも見られないまま終わります。
2026年8月、CEOのリチャード・マスターズ氏はtalkSPORTのインタビューでこの規則について問われ、「我々の現在の国内放送契約は、実質もう上限まで使い切っている」としたうえで、「これはプレミアリーグ単独で決められることではない。EFL(下位リーグ機構)とFA(協会)との三者の話だ」と述べました。見直しの結論が出るのは、現行の放送権契約が更新される約18ヶ月後になる見通しです。
出典: Why does football have Saturday 3pm TV blackout in UK?(BBC Sport、2026年8月時点)
下位リーグを守るためのルールが、下位リーグを人質にしている
この規則の起源は1960年代、バーンリーの会長だったボブ・ロード氏の主張に遡ります。理屈はシンプルでした。マンチェスター・ユナイテッド対リヴァプールが土曜3時にテレビで見られるなら、下位リーグのサポーターはスタジアムに行かず家でそれを見てしまう。結果、入場料収入に頼る下位クラブが干上がる。だから3時台は中継を止めよう、と。
筋は通っています。ただし60年経ったいまも同じ理屈がそのまま通用するかは、また別の話です。当時の対立軸は「生中継かスタジアムか」でしたが、いまの対立軸は「合法配信か違法配信か」です。3時台の試合が見たいファンは、すでにVPN経由の海外配信や違法ストリームで見ています。つまりこの規則が実際に守っているのは下位リーグの懐ではなく、違法配信サイトの視聴者数だ、というのが皮肉な現実です。
それでも規則が残っている理由は、私に言わせれば「合意」ではなく「決められない」からです。プレミアリーグ、EFL、FAの三者は、それぞれ違う利害を持っています。プレミアリーグの上位クラブは配信解禁で世界市場向けの露出を増やしたい。しかしEFLに加盟する下位クラブは、たとえ理屈が古くなっていても、目先の入場料が減るリスクを冒したくない。三者合意が必要な制度設計そのものが、変化を止める最強のブレーキになっています。マスターズ氏の「18ヶ月後にまた話す」という発言は、決断ではなく決断の先送りを、丁寧な言葉で表現しただけのように聞こえます。
イギリスという国は、こういう「理屈は古びたが、変えるコストの方が高いので放置される制度」に事欠きません。左側通行然り、コモンローの積み重ね然り。合理性より慣性を選ぶ国民性、と片付けるのは簡単ですが、実際には「関係者全員の合意」を要求する制度設計そのものが、合理的な結論を遠ざけているケースが多い。3時のブラックアウトは、その典型例をサッカーというわかりやすい題材で見せてくれているだけなのだと思います。
英国のいまを、もう一本。
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