Yours faithfully
「Yours sincerely」と「Yours faithfully」を気分で選んでる人、ビザの担当者にバレてます
この2つ、丁寧さの度合いで使い分けるものだと思ってたら完全に間違い。実は「相手の名前を知ってるかどうか」だけで機械的に決まる。しかも間違えると、イギリス人には一瞬でバレる。ルール自体は3秒で覚えられるのに、日本人の9割が知らないやつ。
ロンドンで働き始めた頃、僕は「Yours faithfully」を『すごく丁寧なやつ』だと思っていた。だから大事な相手にはfaithfully、軽めの相手にはsincerely。丁寧さのグラデーションだと信じて疑わなかった。ある日それを職場のイギリス人に話したら、飲んでたコーヒーを吹き出しそうな顔で「いや、それ丁寧さ関係ないよ」と言われた。関係ない。丁寧さ、1ミリも関係なかった。
丁寧さではなく「名前を知ってるか」で決まる。それだけ
3秒で終わる話
結論から言う。判定基準はひとつしかない。
書き出しで相手の名前を呼んだか、呼んでないか。これだけ。
Dear Mr Tanaka,/Dear Dr Smith,と名前を書いた → 締めは Yours sincerelyDear Sir,/Dear Madam,/Dear Sir or Madam,と名前がない → 締めは Yours faithfully
丁寧さの差ではない。相手が偉いかどうかでもない。名前を知ってるか知らないか、ただの事実確認である。冷たいくらいに機械的で、逆に言えば迷う余地がない。
イギリス人がよく使う覚え方が、これがまた雑で好きだ。
S and S never go together(SとSは一緒に使わない)
最初のSは Sir、次のSは Sincerely。Dear Sir で始めたら Sincerely では終われない、というだけの語呂合わせ。もうひとつ、「知らない人には忠実(faithful)に、知ってる人には誠実(sincere)に」という覚え方もある。どっちでもいい。使えるほうを覚えてほしい。
ちなみに、この規則を守らないと何が起きるか。何も起きない。誰も指摘してくれない。イギリス人は「間違ってますよ」と言うのが死ぬほど苦手だからだ。ただ、読んだ瞬間に「あ、この人フォーマルな手紙を書き慣れてないな」とは思われている。指摘されないまま減点されるという、日本の書道の授業みたいな世界である。
で、メールでこれ使うの? という当然の疑問
使う場面はまだ残ってる
正直に言うと、日常のメールでは滅多に使わない。イギリスの職場で飛び交っているのは9割方これ。
Kind regards,— 事実上の標準装備。迷ったらこれで死なないBest regards,/Best,— ほぼ同じ。ちょっと軽いCheers,— 同僚・気心の知れた相手。取引先の初回には使わないMany thanks,— 何か頼んだとき
ここで小ネタをひとつ。イギリス人の間では、いつも Kind regards の人が急に Regards だけになったら怒っている、という共通認識がある。Kind が消えた瞬間に温度が下がるやつ。日本語で言えば「承知しました!」が「承知しました。」になった時のあの感じ。ビックリマークの有無で相手の機嫌を推理する文化は、どうやら万国共通らしい。
じゃあ faithfully / sincerely はもう死語かというと、そうでもない。紙で出す手紙と、フォーマル度が高い書面ではいまだに現役だ。具体的には:
- ビザ・内務省(Home Office)関連の書類
- 銀行や大家、council(自治体)への正式な申し立て
- カバーレターを添えた求人応募
- 苦情の手紙。イギリス人が本気で怒ると、口頭ではなく手紙で来る
つまりイギリス生活で一番シャレにならない相手にこそ、この2択が出てくる。しかも Dear Sir or Madam で始めざるを得ない場面が多いので、実戦での登場回数は Yours faithfully のほうが圧倒的に多い。担当者の名前なんてわからないですからね。
おまけにアメリカ英語との違いも覚えておくと得をする。Yours faithfully はアメリカでは基本的に使われない。向こうは相手を知らなくても Yours truly や Sincerely で済ませてしまう。さらに語順も逆で、イギリスが Yours sincerely なのに対しアメリカは Sincerely yours。イギリス人が Sincerely yours と書くことはまずない。
覚えることは結局これだけ。名前を書いたか、書いてないか。合コンで名前を聞けたかどうかで次のLINEの文面が変わるのと、構造としては同じである。