- ホーム
- 観光
- 美術館ナビ
- ナショナル・ギャラリー
- コレクション
- スペイン王フェリペ4世
Philip IV of Spain
スペイン王フェリペ4世
ディエゴ・ベラスケス, 1656年頃
ナショナル・ギャラリー Room 19

作品の概要
隣に掛かる若い頃のフェリペ4世像と、必ず見比べてください。 同じ王、同じ画家、25年の隔たり。この二枚を並べて見られること自体が、ナショナル・ギャラリーの価値です。
まず顔を見てください。 頬はたるみ、目は腫れぼったく、視線には力がありません。統治は1621年から続き、この時点で35年目。三十年戦争でスペインは疲弊し、帝国は坂を下り、王は次々に家族を失っていました。 ベラスケスはその全部を顔に描いています。
ここが異常な点です。 当時、王侯の肖像画は理想化するのが常識でした。若く、強く、美しく描く。それが画家の仕事です。ところがベラスケスは、老けて疲れた王を、老けて疲れたまま描いた。しかも王はそれを受け入れ、この絵を公式肖像として認め、複製を作らせて各地へ贈っています。画家と王の間に、それを許す信頼があったということです。
では、威厳はどこにあるのか。 顔ではありません。姿勢と、装いと、記号にあります。背景も服も真っ黒。その闇の中で、蒼白い顔と、糊の効いた白い襟(ゴリージャ)だけが浮かび上がる。胸元には金羊毛騎士団の徽章。整えられた髪。弱った人間の上に、王という制度だけが硬く残っている——そう見える構成です。
近づいて、筆致を見てください。 目の光、襟の縁、胸の金具。どれもごく軽い一筆で置かれていて、細密には描かれていません。ベラスケスの晩年の筆は、描き込むほど本物らしくなるという常識の逆を行きます。必要な数筆だけで存在を立ち上げる——後にマネが「画家の中の画家」と呼んだのは、この境地に対してでした。
これはフェリペ4世の最後の公式肖像です。以後、王は新しい肖像を描かせませんでした。2年後の1658年、ベラスケスは王の推挙でサンティアゴ騎士団に叙任されます。画家が貴族に列せられるのは異例のことでした。
ここがポイント
- 同じ王を描いた若い頃の肖像と並べて見られる。25年の隔たりが一目で分かる
- 理想化が常識だった時代に、老けて疲れた王を疲れたまま描いた。王本人がそれを公式肖像として認めた
- 背景も服も黒。闇の中で蒼白い顔と糊の効いた白襟だけが浮かび、制度としての王権だけが硬く残る
- 目の光も襟の縁もごく軽い数筆。描き込まずに存在を立ち上げる晩年の筆致
- フェリペ4世の最後の公式肖像。2年後、ベラスケスは異例の騎士団叙任を受ける