The Toilet of Venus ('The Rokeby Venus')
ディエゴ・ベラスケス, 1647-1651年頃
ナショナル・ギャラリー Room 30

本作はディエゴ・ベラスケスによる油彩画(1647–1651年頃)で、ロキービー・ヴィーナスとして知られます。
画面ではローマ神話の愛と美の女神ヴィーナスがベッドに横たわり、背中を観者に向けて膝を折りたたんでいます。17世紀スペインでの女性ヌードは非常に珍しく、ベラスケスにとって現存する唯一のヌード作品です。ヴィーナスは翼を持つキューピッドが手にする鏡を通して自らを見つめますが、鏡に映る顔の像は現実の物理的な反射位置とは異なり、大きくぼやけて描かれていることが特徴です。これは鏡像の正確性よりも観者の視線を顔に誘導し、対話を生む演出的効果として意図されたものです。
鏡にはピンクの絹リボンが絡まり、枠を覆っています。リボンは愛の束縛や鏡の吊り具、ヴィーナスの一時的な目隠しなど諸説があります。ベッドのシーツはヴィーナスの身体の曲線に呼応して描かれ、赤・白・灰色を基調とした色彩は肌の輝きを強調しています。近年の技術分析では、灰色のシーツはもともと濃い紫色であったことが分かっています。
本作は、ティツィアーノやルーベンスのヌード作品への応答として制作された可能性が高く、実際にモデルを用いた生写実性が特徴です。ヴェルサイユの『ヴィーナスの戴冠』や『糸紡ぎ女たち』など、他作品と同一モデル説もあります。ヴィーナスとキューピッドは制作過程で大きく修正されており、腕や肩、頭の位置にペンテンティ(描き直し)が確認されています。1965–66年の修復により、絵画の状態は良好で、後補筆はほとんどなく、ベラスケスの精緻な筆遣いと光の表現が鮮明に残っています。
鏡の反射位置の誇張による視線誘導、ベッドや衣服での曲線美の強調など、ベラスケスの高度な写実と演出的手腕が融合した傑作です。