The Arnolfini Portrait
ヤン・ファン・エイク, 1434年
ナショナル・ギャラリー Room 52

この作品はヤン・ファン・エイクによるヨーロッパ美術史上最も有名かつ謎めいた肖像画の一つです。描かれているのは、ブルージュを拠点とするイタリアの裕福な商人一家、アルノルフィーニ家の夫妻です。
夫妻は寝室で全身を見せ、家具や装飾品、衣装などを通じて富と社会的地位を誇示しています。背景の鏡には画面奥の訪問者や画家自身が映り込む巧妙な描写があり、作品全体に緻密な錯視と遠近法の技法が施されています。
この作品が特に有名なのは、油彩の革新的な技法によるリアリティの高さです。当時主流だったテンペラでは難しかった光の層や立体感、色彩の深みを、ヴァン・エイクは層状塗り(グレーズ)と湿潤重ね塗り(ウェット・イン・ウェット)で実現しました。細部(琥珀ビーズや家具、衣装の質感など)まで精密に描かれており、初期油彩絵画の革命的な表現力を示しています。
さらに、鏡の周囲にはファン・エイクのサイン「Jan van Eyck was here」が刻まれ、画家自身の存在を強調しています。このような細部へのこだわりと写実性は、初期フランドル絵画の特徴であり、油彩技法の卓越した用い方が光る傑作です。