Water-Lilies
クロード・モネ, 1916年以降
ナショナル・ギャラリー Room 46

クロード・モネ(1840–1926)の《睡蓮》(1916年以降)は、彼が晩年に取り組んだ大規模な水連連作の一つであり、20世紀絵画史において重要な位置を占める作品です。1910年代前半、モネは妻アリス(1911年没)と息子ジャン(1914年没)を相次いで失い、自身も白内障を患い、制作は停滞していました。しかし、第一次世界大戦の勃発直後である1914年夏に再び筆を取り、「制作こそ祖国への義務」として、ジヴェルニーの庭を主題に描き続けました。
モネは当初から「水と花が連続する装飾的全景」を構想していたと考えられますが、それを実現するために1916年、自宅敷地に巨大キャンバス用の新アトリエを建設しました。高さ2メートルを超える連作群は、親友で首相でもあったジョルジュ・クレマンソーの後押しを受け、戦後フランス国家への寄贈を決意します。終戦翌日の1918年11月12日、モネは連作を「平和の記念碑」として捧げることを約束し、後にオランジュリー美術館の楕円形展示室に設置されました(1927年公開)。
本作はそうした大規模連作のひとつであり、オランジュリーの展示作品と異なり、樹木や地平といった位置づけの手掛かりを一切欠いています。遠近法も消え、画面はただ限りない水面の拡がりで満たされ、睡蓮の葉は周縁に漂うのみです。中心には空か雲か柳の反射が広がり、観る者を空間的定位から解放します。
淡い画面には、緑・黄土色・紫・黄色・空色・桃色などが漂い、光と水の無限のゆらめきが表現されています。その抽象性は印象派の枠を超え、観る者を包み込むような体験をもたらします。ある批評家は、1963年のナショナル・ギャラリー展示時に「唯一の正しい反応は、この色彩の海に飛び込み、溺れることだ」と評しました。
この作品は、モネが自然風景を超え、人間の感覚そのものに迫ろうとした最晩年の精神を象徴する重要な一枚です。