The Execution of Lady Jane Grey
ポール・ドラローシュ, 1833年
ナショナル・ギャラリー Room 38

ナショナル・ギャラリーで、来館者が最も長く足を止める絵の一つです。理由は単純で、この絵は「次に起きること」を描いていないから。私たちは、起きる直前で止められています。
描かれているのは1554年、在位わずか9日間で退位させられた16歳の女王、レディ・ジェーン・グレイの斬首の瞬間です。彼女は目隠しをされ、断頭台の位置が分からず、手探りしています。その手を、ロンドン塔の副官が優しく取って導いている。この「手を取る」仕草が、この絵の中心です。 これから彼女を殺す側の人間が、最後の数秒だけ、彼女に親切にしている。
画面の白を見てください。 周囲が黒く沈む中、ジェーンのサテンの上衣だけが眩しく発光しています。この白は無垢の色であると同時に、血が最もよく映える色でもある。ドラローシュはそれを分かって着せています。
足元を見てください。 断頭台の脇には藁が撒かれています。血を吸わせるためです。斧の刃は光を反射し、断頭台には首を固定する金具が見える。装置としての処刑が、克明に描かれている。
左を見てください。 侍女の一人は柱に顔を伏せ、もう一人は崩れ落ちて衣装を握りしめている。誰も彼女を見ていません。見ているのは私たちだけです。
歴史的には不正確な絵でもあります。実際の処刑は屋外で行われましたし、彼女は白ではなく黒い服でした。ドラローシュは舞台をロンドン塔内部のノルマン様式の空間に移し、フランス革命の断頭台を思わせる木の台を組み、すべてを劇場として構成しています。事実の再現ではなく、感情の再現を選んだ絵です。
この絵は1928年のテムズ川洪水で水没し、長らく失われたと信じられていました。1973年、収蔵庫で無事な状態で「再発見」され、ナショナル・ギャラリーに戻っています。