Mummy of Artemidorus in Painted Stucco Case
作者不詳, ローマ時代、AD 100-120
大英博物館 Room 62

この展示は、ホワラ出土のアルテミドロスという名の男性のミイラで、赤く彩色されたスタッコ(漆喰)ケースに納められています。ケースには肖像パネルがはめ込まれており、写実的な表現の肖像画(ローマ風の「ファイユム肖像」)と、金箔で装飾された伝統的なエジプトの葬祭図像が同居しています。
アルテミドロスの肖像は、髪は前方に梳かれており、これはトラヤヌス期(紀元2世紀初頭)特有の髪型です。さらに、葉と実をあしらった冠が金箔で施されています。
ファイユム肖像とはミイラに付けられたリアルな人物肖像画のことで、死後の世界ではこれを元に本人が認識されると考えられていたため、亡くなった人物の顔を描き、そのままミイラの頭部に取り付けて副葬されました。主にエジプトのファイユーム地方(ナイル川西岸のオアシス地帯)で発見されたため、この名で呼ばれます。
肖像の下にはファルコンカラー(鷹の襟)や、アヌビスがミイラに付き添う場面、ライオン形の霊床に横たわるミイラを守る女神像(おそらくイシス・ネフティス)、ホルスとトトがオシリスの神器を挟む場面など、エジプト的な来世図像が貼付金箔で表されています。頭頂には翼ある太陽円盤、足元にはサンダルとアテフ冠を配するなど、伝統的モチーフが豊かに用いられています。
胸部の短いギリシャ語銘は「Farewell, Artemidorus(さようなら、アルテミドロス)」と読めるもので、綴りに誤りがあることが指摘されています。この点は、ローマ時代のエジプトにおけるギリシャ語文化の浸透や地域的慣習を考える手がかりになります。CTスキャンや三次元復元により頭蓋の放射状の亀裂が確認され、これらは生前の外傷か、あるいは防腐処置の過程で生じた可能性があるとされています(資料番号 EA 21810)。
このファイユム肖像は、ローマ期エジプトの文化的混交を具体的に示す重要資料です。