Rosetta Stone
作者不明, 紀元前196年頃
大英博物館 Room 4

世界でいちばん有名な「石」です。 そして、この石が持ち込んだのは知識ではなく、失われた声を取り戻す鍵でした。
古代エジプトの神聖文字(ヒエログリフ)は、4世紀を最後に読める人が絶え、1400年以上まったく解読できませんでした。 ピラミッドも神殿も墓も、壁一面に文字が刻まれているのに、誰にも読めない。人類は、目の前にある巨大な文明の記録を、ただ模様として眺めるしかなかったのです。
石の表面を上から下へ見てください。 文字が三段に分かれています。
そして、三つとも同じ内容です。 ここが決定的でした。ギリシャ語は当時のヨーロッパの学者なら誰でも読める。つまり、答えの分かっている問題が手に入ったわけです。
上段の楕円の輪を探してください。 ヒエログリフの中に、いくつかの記号を囲む細長い輪(カルトゥーシュ)が見えます。ここに王の名が入る、という推測から解読は始まりました。1822年、フランスのシャンポリオンが「ヒエログリフは絵文字ではなく、音を表す表音文字でもある」と見抜いた瞬間、エジプト三千年の記録がいっせいに読めるようになりました。エジプト学という学問が、この石から生まれています。
内容そのものは、拍子抜けするほど地味です。 紀元前196年、少年王プトレマイオス5世の即位を祝い、神官たちが王への優遇を確認した免税に関する布告。要は役所の公示文です。歴史を変えたのは中身ではなく、「同じ文章が三種類の文字で書かれていた」という一点でした。
石の側面にも注目を。 白い塗料で英語の文言が書き込まれています。「Captured in Egypt by the British Army 1801(1801年 英国軍がエジプトにて捕獲)」。1799年にナポレオン軍が発見し、フランスが敗れた後にイギリスが接収した経緯が、石そのものに記されている。遺物であると同時に、戦利品でもあることを隠していない展示です。
なお、エジプト政府は近年、この石の返還を公式に求めています。展示ケースの前に立つとき、その議論も一緒に見えているほうがいいでしょう。