Mummification: Preserving the Body
不明, 紀元前1000年頃
大英博物館 Room 63

エジプト人がミイラを作った理由は、「死体を残したかったから」ではありません。 そこを取り違えると、この展示は半分しか見えません。
彼らの死生観では、人は死ぬとバー(個性・魂)とカー(生命力)に分かれ、夜ごとに肉体へ戻ってきます。戻る先が失われていたら、その人は二度目の死を迎え、永遠に消滅する。 ミイラ化は美意識でも呪術でもなく、魂の帰る家を維持するための、極めて実務的な保全作業でした。
工程を順に見てください。
1. 洗浄。 遺体は「イブ(浄めの天幕)」へ運ばれ、ナトロン溶液で洗われます。ナトロンは天然の炭酸ナトリウムで、防腐と脱脂の作用があります。
2. 内臓の摘出。 左脇腹を切開して、肺・肝臓・胃・腸を取り出します。取り出した内臓は防腐処理され、カノポス壺に納められました。
ここで、脳と心臓の扱いの違いに注目してください。 脳は鼻から金属の鉤を差し込んで掻き出し、捨てられます。 思考の器官とは考えられていなかったからです。一方、心臓は必ず体内に残されました。 死後の審判で、心臓は真理の女神マアトの羽根と天秤にかけられる。心臓がなければ、裁きを受けることすらできない——だから残す。エジプト人にとって、人格が宿るのは心臓のほうでした。
3. 乾燥。 遺体をナトロンで覆い、35〜40日かけて完全に水分を抜きます。ここが最も時間のかかる工程です。
4. 造形。 乾燥した遺体は痩せこけて縮みます。そこで頭蓋や胸腔にリネンや砂、泥を詰め、顔や手足のかたちを整える。生きていたときの姿に近づける作業です。表面には樹脂が塗られ、人工の目が入れられ、指には金や銀の覆いが被せられることもありました。
5. 包帯。 ここが最も宗教的な工程です。細く裂いた布を、順序を定めて何十層も巻いていく。使われる布は古い衣服や寝具の場合もあれば、高位者には神殿儀礼用の上質なリネンが使われました。布に死者の名が書かれている例も見つかっています。包帯の合間には、決められた位置に護符が納められ、その都度、呪文が唱えられる。この作業は数日にわたりました。
そして最後に、覆布(シャラウド)。 最も外側を包む一枚で、第21王朝の例ではオシリス神の姿が描かれています。外層は赤みを帯びた色に染められ、縦・横・斜めに色違いの帯が渡された。
包帯は保存のためだけではありません。 包み終えた姿は、生きていた人間の姿ではなく、神になった存在の姿です。マスクと副葬品を伴って、遺体は「変容した存在」へ作り替えられる。ミイラ化の最終目的は、人を神に変えることでした。
紀元前1000年頃、この技術は頂点に達します。展示ではその工程が、実物とともに順を追って見られます。