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    Britain, Argued2026年8月26日

    路上生活を終わらせる4億4200万ポンド——8年間「試験運用」だった手法に、英国はようやく賭ける

    世相・ニュース物価・お金

    英政府が2026年8月25日、イングランドの路上生活者全員に「今冬中に路上を出る道」を用意するとして4億4200万ポンドを投じると発表しました。中身は Housing First——先に家を渡し、条件を後回しにする手法です。英国はこの手法を2018年から知っていて、成功率92%という自前の実証結果も持っていました。それでも8年間、試験運用のままでした。この記事は「なぜ効くと分かっていた策が8年間放置されたのか」を扱います。

    路上生活を終わらせる4億4200万ポンド——8年間「試験運用」だった手法に、英国はようやく賭ける
    News

    路上生活を終わらせる国家的取り組みの報道

    住宅・コミュニティ・地方自治省、2026年8月25日

    英国の住宅・コミュニティ・地方自治省(MHCLG)が2026年8月25日に公表した Coverage of national drive to end rough sleeping によれば、政府は4億4200万ポンドの予算措置を発表しました。イングランドで路上生活をしているすべての人に、この冬のあいだに路上を離れる道筋を提示するという内容です。

    位置づけは、首相が掲げる Housing First 戦略の第一段階。期限は「クリスマスまでに全員に支援を提示する」。首相はこれを「私にとって道義的な使命(a moral mission for me)」と述べ、担当大臣は4億4200万ポンドを「長期的な路上生活を終わらせるための緊急の第一歩」と説明しています。

    支援団体の反応は、歓迎一色ではありません。慈善団体クライシスのマット・ダウニーは「路上から定住の住まいへの道に乗せることは、命を救う」と評価する一方、ビッグイシュー共同創業者のバード卿は釘を刺しました。

    People should not be sent back out after a few weeks. (数週間後にまた外へ送り返されるようなことがあってはならない)

    この一言が、以下で扱う論点のすべてです。

    Argument

    効くと分かっていた。データも自前で揃っていた。それでも8年かかった

    ここからは私見です

    まず数字を置きます。イングランドである一夜に路上で寝ていた人は、2025年秋の政府集計で4,793人。統計開始の2010年から171%増、過去最高です。2019年には「2024年までに路上生活をなくす」という公約がありました。結果は記録更新でした。

    そのうえで、今回の Housing First という手法について。従来の英国のやり方は「階段モデル」と呼ばれるもので、シェルターに入り、断酒し、就労支援を受け、条件をクリアするごとに段を上がって、最後にようやく自分の部屋に到達する。住まいはご褒美でした。Housing First はこれを逆さにします。先に鍵を渡す。断酒も通院も条件にしない。支援はそのあと、住んだ状態で続ける。

    驚くのは、英国がこれを知らなかったわけではないことです。2018年、リヴァプール都市圏・大マンチェスター・ウェストミッドランズの3地域で2800万ポンドの実証事業が始まりました。2024年初頭に公表された政府分析の結果はこうです。

    指標結果
    1年後も定住している割合92%
    1人あたり年間支出約7,700ポンド
    1人あたり年間の長期的節約効果約15,880ポンド

    定住率92%。しかも払う額より浮く額のほうが倍以上大きい。財務省が好みそうな数字が、2024年の時点で揃っていたわけです。

    それでも2018年に始まった3件の実証事業は、2025年初頭以降の予算すら確定しないまま宙に浮いていました。8年間、パイロット。英国の行政用語で「パイロット」とは、しばしば「やる気はあると言い続けるための装置」を意味します。効果検証が目的なら、92%が出た時点で終わっているはずですから。

    Argument

    フィンランドが持っていて、英国が持っていないもの

    思想の問題ではなく、在庫の問題

    Housing First の本家はフィンランドです。EU で唯一ホームレスが減り続けている国で、ヘルシンキでは路上生活が実質消滅しました。2008年から2019年で投じた額は2億7000万ユーロ超。

    ここで「北欧は福祉の思想が違うから」と片付けるのは、たぶん間違いです。フィンランドが持っていて英国が持っていないものは、思想ではなく部屋の在庫でした。Y財団という団体が57の自治体に約18,500戸を保有し、国の低利融資で物件を買い増している。Housing First は「先に家を渡す」政策なので、渡す家が無ければ一行も実行できない。当たり前すぎて誰も言わない前提です。

    英国の障害として指摘されてきたのも、まさにそこでした。手頃な住宅の絶対量が足りない。加えて、フィンランドの計画が政権の任期をまたいで継続する設計だったのに対し、英国の資金は年度と選挙のサイクルで切れる。5年で結果を出せと言われる制度に、10年かかる政策は乗らない。

    だから今回の発表を評価するとしても、見るべきは4億4200万ポンドという額面ではないと思っています。単価7,700ポンドで割れば理屈のうえでは相当な人数に届く額です。問題は期間のほうで、「クリスマスまでに」という期限は、路上の人数を年内に減らすことはできても、その人たちが翌年も部屋にいるかどうかは何も保証しない。バード卿が「数週間後に送り返されるな」と言ったのは、この国が過去にそれをやったからです。2020年のコロナ下では「Everyone In」で10か月に37,430人を収容し、路上生活を一時的にほぼ消しました。そして戻りました。

    路上生活は、冬のあいだ人が見えなくなれば解決したように見える、という厄介な性質を持っています。政治的な成功と、政策的な成功の判定時期がずれている。前者はクリスマスに、後者は数年後に出る。今回の4億4200万ポンドが本物かどうかは、来年の冬、同じ予算が同じ規模で組まれるかどうかで分かります。単発なら、それは政策ではなく、季節のイベントです。

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