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    ジャスト・ロンドンは、ロンドンの深層に迫る力量も器量もない中途半端な存在ですが、旅の判断をほんの少し整える一文が紛れていれば、それだけで存在理由になります。

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    British English2026年8月22日

    porkies

    「ポークパイ食べた?」と聞かれたら、それは「嘘つくなよ」の意味かもしれない

    pork pies が lies と韻を踏むので「嘘」。しかも pies の部分だけ残して porkies と略す。二段構えの暗号で、初見の日本人が解読できる確率はほぼゼロだと思う。

    パブで友人が「昨日の遅刻、電車が止まってて」と言い訳しはじめた瞬間、隣のイギリス人が笑いながら「Don't tell porkies」と遮った。豚肉? 遅刻の話をしていたはずでは? と真顔で聞き返したら、テーブル全員に爆笑された。あれは今でも思い出すと恥ずかしい。

    01

    韻を踏んだあと、韻を踏んだ方を捨てる

    コックニー押韻スラングの一番いじわるな仕組み

    仕組み自体はシンプルで、pork pies が lies(嘘)と韻を踏む。だから「嘘」を「ポークパイ」と呼ぶ。ここまではまだついていける。

    問題はこの先。韻を踏んでいる pies の方を捨てて、porky / porkies だけ残す。つまり最終形からは、韻の痕跡がきれいに消えている。

    • lies(嘘)
    • → pork pies(韻を踏む)
    • → porkies(韻の部分を削除)

    これ、暗号としてはよくできているけど、言語としてはかなり不親切だと思う。「豚」の話をしているのに豚は一切関係なく、そもそも韻すら残っていない。手がかりゼロ。

    コックニー押韻スラングは全部このパターンなので、たとえば「階段(stairs)」が「apples and pears」を経て apples になったりする。リンゴで階段。もはや当てるゲームですらない。

    会社で「あの件どうなってる?」を「例のアレ」と呼びはじめ、しばらくすると「アレ」だけになり、半年後には新人が一人も会話についていけなくなる——あの現象の言語版だと思っている。内輪で通じることそのものが目的なので、外部に優しくする動機が最初から無い。

    02

    「ヴィクトリア朝の東ロンドン発祥」、たぶん盛られてる

    記録を辿ると1943年しか出てこない

    この手のスラングを紹介する記事は、だいたい「1840年代の東ロンドンで、労働者が警察に会話を聞かれないよう作った暗号」と書いてある。ロマンがあるし、みんな信じたい話だ。

    でも porky に関しては、実際に文献で確認できる最古の用例は 1943年、リチャード・スルウェリンの小説『None But the Lonely Heart』だとされている(Green's Dictionary of Slang)。次が1969年。ヴィクトリア朝から100年ずれている。

    押韻スラングという「仕組み」自体が1840年代のロンドンに遡るのは事実らしい。ただ、個々の表現がいつ生まれたかは別の話で、porkies はどう見ても20世紀の言葉に見える。そもそも「メルトン・モーブレイのポークパイ」が全国区の食べ物として定着したのも19世紀に入ってからだ。

    語源の俗説というのは、会社の「創業者がガレージで一人で始めた」エピソードに似ている。細部は毎回盛られていくのに、誰も検証しない。

    使うときの注意: porkies は基本的に軽口で、「その言い訳、盛ってるだろ」くらいの温度感。本気で人を嘘つき呼ばわりする場面には使わない方がいい。逆に言うと、友人の言い訳に対して笑いながら「That's a porky」と返せたら、かなり現地に馴染んでいる感じが出る。

    明日もまた1語、増えます。

    イギリス英語の沼は、思ったより深い。

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