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    Britain, Argued2026年8月22日

    1回2ポンド以下の薬物が、ロンドンの夜に広がっている

    世相・ニュース物価・お金

    エヴニング・スタンダード紙が2026年8月、GHBという薬物がゲイクラブの文化圏から一般のクラブへ流れ出していると報じました。専門家が口を揃えるのは「効く量と危ない量がほとんど同じ」という一点です。この記事では、なぜこの薬物がいまロンドンで広がるのかを、値段という身も蓋もない数字から考えます。

    1回2ポンド以下の薬物が、ロンドンの夜に広がっている
    News

    なぜGHBがロンドンの主流の夜遊びに流れ込んでいるのか

    エヴニング・スタンダード 2026年8月22日

    2026年8月22日、エヴニング・スタンダード紙が Why GHB is spilling into London's mainstream nightlife という記事を出しました。GHB——現場では「G」と呼ばれる無色の液体です——が、長らく結びつけられてきたゲイクラブやチェムセックスの文化圏を越えて、普通のクラブや無許可のレイヴにまで出回りはじめている、という内容です。

    記事に登場する専門家の見立ては揃っています。リヴァプール大学の犯罪学者で、薬物検査を行う慈善団体 The Loop を率いるフィオナ・メザム教授は、GHBが「ゲイの世界からストレートの世界へ移動している」と述べ、フェスやクラブで倒れる人が増えていると指摘します。そして危険の核心をこう説明します——「効く量と、過剰摂取になる量が、あまりに近い」。

    取り締まりの数字も出ています。2026年4月、ロンドン警視庁はサウソールの倉庫でGBL(GHBの原料になる液体)2,256リットルを押収しました。1リットル瓶が12本入った箱が188箱です。この男は2026年7月23日、禁錮12年の判決を受けています。ロンドン警視庁史上でも最大級の押収でした。

    ちなみにGHBは2022年4月13日、クラスCからクラスBへ格上げされています。厳罰化して4年、流通は広がっているわけです。

    Argument

    2ポンドの多幸感と、6ポンドの一杯

    ここからは私見です。

    この話を「若者の乱れ」や「クラブ文化の闇」として読むと、たぶん本質を外します。数字を並べると、もっと即物的な絵が出てきます。

    英国政府の諮問機関ACMD(薬物乱用諮問委員会)が2020年11月に出した報告書には、この薬物の値段が書かれています。1回分がおよそ1ポンド、高く見積もっても2ポンド以下。マンチェスターでもブリストルでも、オンラインでも、だいたい同じ相場だと記されています。

    一方、2026年時点でロンドンのパイント1杯の平均は、調査によって差はあるものの、おおむね5ポンド後半から6ポンド台後半。メイフェアあたりでは10ポンド、11ポンドという値札も珍しくなくなりました。クラブで一晩を過ごすなら、入場料を別にして、飲み代だけで30ポンドから40ポンドは飛びます。

    並べてみましょう。

    一晩の目安
    ビール5杯(ロンドン平均を6ポンドとして)約30ポンド
    GHB(1回2ポンドとして数回)数ポンド

    酔うという体験を買うのに、片方は30ポンド超、片方は小銭。しかもGHBの効き方は「アルコールの酩酊とMDMAの多幸感の中間」で、翌日の二日酔いがない、と使用者は言う。経済合理性だけで見れば、これは勝負になっていません。

    背景にはもう一つ、夜の街そのものの縮小があります。英国のナイトタイム・インダストリーズ協会によれば、バーやクラブなど深夜営業の事業所は2020年3月からの6年間で28.9%減、週に3軒近いペースで消えている計算です。ロンドンだけで千軒以上が失われました。店が減り、残った店の値段が上がる。行き場を失った夜遊びは、公式な会場から離れていきます。記事に出てくる「森の中の無許可レイヴ」が象徴的です。入場料も、酒の値段も、そこにはありません。

    面白い——というと不謹慎ですが——のは、その無許可レイヴが参加者に出した通達です。「GHB禁止。一切。いかなる形態、濃度、意図であっても。これは絶対だ」。法を無視して開かれる催しが、法よりも厳しい禁止令を自分に課している。ベルリンのベルクハインやオランダのDraaimolenといった名門クラブも同じ禁止を敷いています。国家が4年前にクラスBへ格上げした薬物を、いちばん本気で締め出しているのは、国家ではなく現場の主催者だという構図です。

    Argument

    「27人」という数字が小さく見えることの罠

    では実際、どれくらい人が死んでいるのか。ここが厄介です。

    ACMDの報告書によれば、イングランドとウェールズでGHBが関与した死者は2018年で27人。同じ年の薬物関連死は4,393人ですから、比率にして0.6%です。1995年から2012年までの17年間で見ても159人、全体の約0.5%にすぎません。オピオイドやコカインの桁とは比べるべくもない。

    27人。数字だけ見れば、これは「小さい問題」に見えます。実際、そう扱われてきました。

    しかし報告書は同じページで、この数字を額面通りに受け取るなという警告も添えています。GHBは脳内に自然に存在する物質で、しかも死後に濃度が上がる。血液サンプルを保管しているだけで数値が動く。おまけに検出が難しいため、通常の検死では検査項目に入っていない。ACMDが「原因不明の突然死では検査を標準化すべきだ」とわざわざ勧告したのは、裏を返せば、いまは調べていないということです。

    調べていないものは、統計に載りません。載らないものは、小さく見えます。小さく見えるものには、予算がつきません。

    ロンドンに限った研究では別の絵も出ています。2011年から2015年に検死解剖された6,633件のうち、GHBが検出されたのは61件。そして2015年は前年比で119%増でした。

    引っかかるのはここです。この薬物の危険は、量が多いことではなく、線が細いことにあります。ACMDの表現を借りれば、望ましい効果と昏睡を分ける差は「数グラム程度」。1ミリリットル以下でも過剰摂取が起こりうる、とNHSは書いています。台所の計量スプーンより細かい世界で、暗いクラブの中、すでに酒が入った状態で、目分量で液体を注ぐわけです。

    これは意志の弱さの問題ではありません。設計の問題です。他の多くの薬物は、使いすぎれば気分が悪くなるという警告が先に来る。GHBにはその猶予がない。効いている状態と、床に倒れている状態が、スプーン一杯で隣り合っている。

    だから「厳罰化すれば減る」という発想は、たぶんここでは効きません。2022年にクラスBへ上げて、押収量は過去最大級になり、流通範囲はむしろ広がった。値段は1回1ポンドのままです。取り締まりが値段を押し上げられていない以上、経済的な抑止力は働いていない。

    代わりに効いていそうなのは、地味な三つです。検死で必ず検査すること(数字が正しくなければ議論も始まらない)。現場に薬物検査と回復スペースを置くこと。そして、無許可レイヴの主催者がすでにやっているような、入口での明確な排除です。

    国がクラスBの札を貼るのに20年かけている間、森の中のレイヴ主催者は一晩で「絶対禁止」を決めた。制度が現場に追い抜かれるとき、たいていその制度は、測るべきものを測っていません。

    英国のいまを、もう一本。

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